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ワイリーコヨーテ 2/28/99

友人の医学博士と飲みに行ったところ、これやるわ嬉しいやろ、とくれたのは空耳アワー最新版二時間分ぎっしりと、それからなんとワイリーコヨーテのぬいぐるみ。それも身長50センチはあろうかという大きなものである。つくづく行動パターンの読めないけったいな人やなあと思ったがこれは本当に嬉しかった。

知らない人もいるかもしれないので書いておくがワイリーコヨーテというのはワーナーブラザースのアニメ、ルーニートゥーンの中の『ロードランナー』で、ロードランナーという爆発的な加速力ととてつもないスピードで走りまわる鳥を、ひたすら追いかけるあわれなキャラクターである。とにかくこの世のありとあらゆる法則が、ワイリーに不利な作用をする。たとえばロードランナーを岩にぶつけてやろうと考えたワイリーが、巨大な壁のような岩に、向こう側へ走り抜けることが可能であるかのような見事なトンネルの絵を描く。たいてい一筆か二筆で現実の風景と寸分違わぬ絵が描けてしまうのだが、そこへロードランナーが突進してくるのをワイリーがほくそ笑んで見ているとロードランナーは絵であるはずのトンネルを、現実のもののようにいっきに通り抜けてしまうのである。きょとんとしたのち、あわてて追いかけようとダッシュしたワイリーがトンネルを抜けようと全力で突進するとやはりそれは絵であり、ワイリーは激突しぺらぺらの紙みたいにひしゃげてしまう。実に間抜けで悲しくて笑えるところであるが彼の災難は終わらない。ぺらぺらになったワイリーがひらひらと地面に落ちたか落ちないかというところで今度は絵のトンネルの中から巨大なトレーラーが轟音とともに走り出てきてワイリーを轢くのだ。しかしこのような目にあっても、一瞬のちには彼は次の作戦に入っている。それは「アクメ社」から通信販売で買った爆弾や薬品を使用するものであったり、自作の武器を使うものであったりするが、毎回絶対ありえないような信じがたい方法で失敗を重ねていくのである。この手の追いかけっこ漫画は『トムとジェリー』が基本だろうけど『ロードランナー』ほど単純で馬鹿馬鹿しいのは他にない。ストーリーなど皆無である。ただ追いかけて失敗するだけ。そこには理由さえもない。ひたすらひどい目に遭い、ときにはカメラ目線で落下していくワイリーの姿がただもうそれだけで爆笑を誘うのだ。実にいいやつである。

『トムとジェリー』の中にも『ロードランナー』を作っていたチャック・ジョーンズという人が手がけたものがあってぼくにはやはりこの人の作ったものの方がおもしろかったように思う。最近ビデオで見直して、特にぼくが笑ったシーンは船の上での追いかけっこのやつで、まず間抜けなトムの尻尾の先を、背後から忍び寄ったジェリーがハサミでじょきんと切ってしまう。こんなことをするから今のテレビでは放送できないらしいのだが、それはともかくこの次がすごい。切られたトムが反応するシーンは描かれず、いきなり画面は遙か上空からの俯瞰となる。大海原の真ん中に点のように見えているのが船なのだなあと思った瞬間、すさまじいクレッシェンドの悲鳴とともに切れた尻尾を握りしめたトムがロケットのように船から「こっちへ」飛び上がってくるのだ。あの切り替わりはめちゃくちゃおかしかった。

大森望さんのページにパーティーのときのぼくの写真が出ていたが、誰か他の人のとまちがっているのではないかとしばらく考え込んでしまうほど間抜けな顔で写っていたので衝撃を受けた。ぼくってあんな顔?


東京宴会三昧 2/25-27/99

別に急ぐ必要はまったくなかったのだが前から一度乗ってみたかったので500系のぞみというのに乗った。西明石から新大阪までは昔ながらの「こだま」だったため新大阪のホームに500系が入ってきたのを見たときはサンダーバード2号が来たみたいに興奮し今からそれに乗れるのかと思ってどきどきした。しかし乗ってしまえばたいした違いはなく、よくすいていたため隣には誰もおらず受験に行く美しい清楚な女子高生が隣の席に来て仲良くなって今日どこに泊まるの明日心細いからいっしょにいてくださいませんかいいのかい本当にいやんエッチみたいなこともまるでなかった。何度も新幹線には乗っているのに若い美人が隣に来たことはこれまで一度としてない。たいてい臭いおっさんか、たまに女性でも高齢者である。あれはおそらくJRの窓口で指定席を取る客を簡単に分類し、若い男女が隣り合わせになってよろしくやるのを阻止しようとするJR職員たちの企みなのではないかと思う。十中八九まちがいあるまい。女性客が来た際、たとえば美人なら「ビジ」若い美人なら「ワビ」不細工は「ブサ」おばばは「ババ」という具合に符丁をつけておき、若い男が切符を買いにくると「おっといかん、この席は隣がワビやないか。そんなええ思いさせてたまるかいなここはやめてええとあったあったブサがあったこの横にしといたろおもろ」などとやっているのである。くそっ。

と怒っていると東京着。お茶の水まで行っていろいろ編集者とお会いする。ホテルのチェックインをすませてからアイリッシュの店に連れていってもらってギネスビールを飲み、また別の店に連れていってもらってビールを飲む。そのあと新宿のいかがわしいところを歩きまわって「あの子でだいたい二万五千円。あっちならたぶん二万でいける」などと詳しく教えてもらい、なにかいかがわしいが楽しそうなことに巻き込まれるかと思ったがなんにもなくそのあとまたビールを少し飲んで深夜遅くホテルへ帰る。たぶん仕事の話もしたのだと思う。

翌26日は昼過ぎ新宿「滝沢」という喫茶店(談話室と書いてあったが)でまた別の編集者二人とお会いする。かなり早めに行ったので編集者はまだ来ておらず、やたらと丁寧で上品な店員さんに囲まれてなんとなく不安な中メニューを見せられたところ「コーヒー1000円」と書いてあったためびっくりしてのけぞり背後に座っていたおっさんの後頭部を破壊し、うわずった声でコーヒーを頼む。これで待ち合わせ場所をまちがえていたりするとコーヒーに1000円払う羽目になるのかと不安で胃が縮んだがすぐに会えたのでほっとしておかわりをした。仕事の話を少ししてからイタリアンレストランに連れていってもらい、スパゲティを頼むと牛に食わすのかと思うほど大量のスパゲティが出てきて驚いた。半分近く残してしまったがどう考えてもあの量は異常であった。

編集者と別れてから、ホテルのチェックインをしておこうと都庁の方へ歩き、ひたすら迷ってなんとか目的のホテルを発見すると、ちょうどフロントではどろーんとした雰囲気の男が三人チェックインしようとしているところで、さすがホラー坊主牧野修さんがとってくれただけあってホラーな空気やなあと怯えていたら一番うさんくさいのがこっちを向いて「ああ来た来た」田中啓文さんであった。あとの二人は牧野さんと我孫子武丸さん。偶然ですなあ、などと言いつつ仲良くそろってそれぞれの部屋へ行き、急いで打ち合わせにいくという我孫子さんと啓文さんを見送ってから牧野さんと東京會舘へ向かう。迷いに迷って東京會舘を発見し、4時からのSF作家クラブの集まりに出るという牧野さんと別れるとぼくは六時までなんにもすることがなくなった。しかたなく皇居を見物する。桜田門も二重橋も見るのは初めてで、一時間ほどあちこち歩いてなかなか楽しかった。それから大きな本屋を見つけて入り、やみなべの陰謀がないのを確認し、続いて水霊と屍の王がないことも確認して安心する。肉食屋敷はあった。ちっ。

6時からSF大賞などの授賞式。ショートショートコンテスト出身者の方々とも十数年ぶりに会ったりして驚く。何人かはぼくのことなど完全に忘れているようだった。大森望さんと我孫子さんのところへはあれこれ有名な方々が挨拶に来られるので、お二人のどちらかと常にいっしょにいるようにして、これはという人が来たらそのつど紹介してもらうという作戦をとった。花びらに擬態して蝶を食らうカマキリがごとき卑屈なこの作戦は見事に当たり、いろんな編集者はもちろんかの京極夏彦さんや宮部みゆきさんともお話しすることに成功した。あちらがぼくのことなど別れた五分後には忘れていたであろうことは容易に想像がつくがそんなことはいいのだ。「ぼくは実は宮部みゆきと/京極夏彦と、話したりもするんだよ」という自慢がこれからずっとできるのであるぞどうじゃうらやましいか。お二人ともとてもいい人だったので非常に嬉しい。去年12月のメディアワークスの忘年会のときのように(わざわざ書くのに特に意味はないけどわからない人は12/1-2の日記を必ず参照のこと)名刺を捨てられるようなこともなかった。それからも船戸与一氏北方謙三氏をはじめ、恐ろしいような方々を遠くから眺めてえらいとこ来たもんやなあと感動する。

その後銀座のお店に連れていってもらってわいわいと騒ぐ。前からお会いしたいと思っていた飯野文彦さんともやっと会えて喜んでいたのだが飯野さんはめちゃくちゃ上機嫌で、ものすごい酔い方をされていた。どのようにものすごかったかということは公序良俗に反するので書けない。めちゃくちゃおもしろかった。ぼくもこのあたりから泥酔していたのであまり他のことは覚えていない。さいとうよしこさんを相手に馬鹿な話をしたような記憶がある。覚えていないのになんとなく嬉しく恥ずかしい。それから今度はカラオケに行き、倉阪鬼一郎さんが感情豊かにハウリングがんがんで歌う姿に感動し、淡々と自分の歌いたい歌を立て続けに歌う我孫子さんに感心し、大森さんの甲高い歌に驚いた。

ホテルに帰ってから牧野さんの部屋で朝まで馬鹿話。さっさと寝ればいいのに。二時間ほど眠っただけでチェックアウトとなる。わざわざホテルとったのはなんのためなのか。打ち合わせがあるという牧野さんと啓文さんにくっついて新宿中村屋へ行った。人が仕事の話をしているのをぼさっと眺めているのは楽しい。それまでも元気のなかった我孫子さんはこの中村屋で突如ダークな人となり、ここにいた約二時間半のうち二時間ほどは便所に入って出てこなかった。二人の打ち合わせが終わり、死臭漂わせるゾンビのような我孫子さんを恐れつつ帰途につく。驚いたことに帰りの新幹線の、ぼくの隣の席にいたのは若い美人であった。花のような香りのする人だった。富士山を眺めていてふと目が合うと、その人はにっこりと微笑んで「綺麗ですね」と言った。


短気なおっさん 2/24/99

新幹線の切符を買おうと並んでいると背後にめちゃくちゃ短気なおっさんが来た。なにも言わないうちから背中にいらいらの殺気が突き刺さってくるのである。ぼくの番が来てできるだけてきぱきと用件を言ったのにどういうわけか今回乗車券指定券あわせて六枚もあったため窓口の兄ちゃんはそれをぼくの前に並べて細かく説明を始めた。後ろのおっさんがいらいらしているのがあんたわからんのかと言いたいのをぐっとこらえて説明を聞き、金を払いつつおそるおそる「領収書ください」と言うと背後でおっさんの血がぐぐっと煮えるのがわかった。ところが窓口の兄ちゃんはなぜか必要以上にのんびりしている。ゆっくりと領収書を出してきて「お名前は」ぼくがとある出版社の名を告げるとその名がよくわからないらしくて何度も訊き返してくる。もうなんでもいいからはやく書いて、と泣きそうになりながらやっと領収書をもらって窓口を離れたとたん、後ろのおっさんは真っ赤な顔をして五千円札を叩きつけるように投げがらがらの大声で「加古川っ」と叫ぶ。加古川というのがすぐ近くの駅名であることは明白なのに窓口の兄ちゃんは平然と「どちらまで」からかっているのかアホなのか。おっさんそのあたりでかなりくらくらしている感じであった。見間違いでなければ目尻から血が噴き出していたようである。「かっかっ加古川や言うとうやるろろろおおおおっ」と全身顫わせて怒っているのに兄ちゃんは素顔で「加古川ですね」声も普通。おっさんついに爆発して「おっおっおうおまえのとこはなにか、ごっごごっご五千円札の両替する機械も置いてへんのかあああっ」すると兄ちゃん優しい声で表情ひとつ変えず「あちらとあちらの方に五千円札一万円札の使える自動販売機がございます」それを知らないおっさんが悪いと言えば悪いのだがおっさんはもうあたまくらくらなので意味がわからないらしく「あっちこっちでたらいまわししやがって両替もできひんのかぼけえ天下のJRがなんちゅう情けないことや両替機くらいないんかどあほわしは25分の電車に乗らなあかんのに手間かけさせるさかい」そこで時計を見て一瞬固まったのち「ががっ。乗り遅れたっ。もうあかんやないかくそっ。なんやねんくそっもう二十五分過ぎてもとうやないかあっちこっちたらいまわししやがって両替機もないだぼな駅のアホのせいでくそがぼけがんまにごうわく」地団駄踏んであたり散らしているのに窓口の兄ちゃんは何事もなかったように「はい次の方どちらまですかあ?」

明日から東京。


なんにも仕事せず 2/23/99

久しぶりに実家で寝たため、昨夜はPowerbook Duo280という不便な機械で仕事をせねばならなかったのだが、なんとかやってみようと始めたもののすぐに液晶の四隅が黒くなってきてうっとうしいうえ実家のぼくの部屋には今年ストーブを出しておらずとてつもない寒さで、ストーブのある居間へコンピューターを持っていってやろうとしたらこっちは石油ストーブのせいでいきなり頭はぼうっとし、これはいかんなあどうしようかなあということでなんとなくビデオで『身代金』ディレクターズカットというのを観てしまう。日本語にすると監督切りである。智衆流秘剣必殺身代金監督斬りというのはどうでしょう。ゲイリー・シニーズは八方師匠に似ているなあとビールを飲みながら見終わってビデオを切ろうとするとNHK衛星放送で『Xゲーム』(エックスゲームね。バツゲームではない)をやっていたので続けて見てしまう。昨日やっていたのはスノーボードのスロープスタイル(だったと思う)というスケートボードやBMXのストリート競技みたいなやつで、スロープのあちこちにジャンプ台やらメイルボックスなんかが置いてあるところをくるくる回ったりしながら降りていくというやつ。そうそう知らぬ人が読むとなんでそんなところに郵便箱が出てくるのかと思うところであるがメイルボックスはこういう場合たいてい出てきます嘘ではありません本当です見たらわかります本当に使うんです。金メダルはこないだ苗場でハーフパイプ金メダルだったロス・パワー。そのあと今度はスノーブレードというんですか、スキーボードと紹介されていたが短いスキーでストックを持たない最近ちょいちょい見かけるなんか変なやつ、あれでスノーボードと同じコースを滑っていた。こっちもけっこうおもしろかった。けっこうおもしろかった、とかけっこう好きですというと誉めているようでも言われた人はけっこういやな気持ちになるのでわざとイヤミで言うのなら効果的ですが本気で誉めたいときは気をつけましょうね。というわけで昨日はアホ犬の小便のせいでなんにもできず今日は今日でなぜか腹痛と下痢に見舞われて苦しいのに自転車のパンクを直したりしてしまって仕事は夜中になってからやっと始めるのであった。と、書いたとたんドアベルが鳴る。誰や今頃。


犬の小便を持っていく 2/22/99

両親は旅行に出かけ、ちょうどその日アホ犬の検査に行かねばならぬというのでまたしてもあの恐怖と硬直の旅にひきずっていかねばならんのかと暗澹としていると、小便だけ持っていって検査してもらえばよいのだという。もうあんなに元気ではないかもう完全に復活しているのではないか昨日から以前のように小便するとき逆立ちするようになっておるぞ小便したあと七十回ほど気が違ったように地面を後ろに蹴る癖も復活したぞめちゃくちゃ元気やぞと抵抗を試みたのだが、いやまだ治ってないかもしれない突然死ぬかもしれないという。仕方なく、写真の35ミリフィルムが入っていたケースをアホ犬の股間に持っていって少量の小便を採取し、非常に侮辱されたような気持ちになってしぶしぶ獣医のところまで持っていった。順調に治っているといわれる。ほらみろ放っておいてもよかったのに、と思って憤慨していると、しかし再発する可能性はめちゃくちゃ高いので、このナントカカントカフードを食べさせてくださいと、1キログラム1800円もするドッグフードを買わされる。もしかするとあまり食べないかもしれませんが云々と、食が進まぬ場合の注意をいろいろと聞かされ、帰って試しにその餌を与えてみると食うわ食うわ。けだものまるだしでがつがつ食い尽くし、もうないのかとしばらく餌の皿やその付近、あるわけもないのに小屋の中などをしつこくしつこく五分ほどもあちこち探し、どこにもないことがわかるともっとくれとはっきりわかる鳴き方でしつこくしつこく数時間も鳴き続けるのであった。あんなにいじましい犬だとは思わなかった。


また長電話 2/21/99

夜十時頃三階の友人の部屋に寄って、新しく買ったというハードディスクレコーダーなるものを見せてもらい、たまたまそこにあったアイラ・レヴィン『ローズマリーの息子』とグラハム・ハンコック『惑星の暗号』を貸してもらい、映画の『ローズマリーの赤ちゃん』でローズマリーを密告する医者はあれチャールズ・グローディンやでというような話をしながら勧められるままに缶ビールを二本ほど飲み、自分の部屋に戻ってそろそろ仕事をせねばなあしかしビールのせいでぼんやりしてしまっておるからどうしたものかなあ先に風呂でも入ろうかなあと思っていると電話がかかってきて、そのまま朝の七時までしゃべる。その間なんとなく次から次へとビールを飲んでいたため電話を切ったときには冷蔵庫のビールはすべてなくなっており、世間は明るくなってきて人々は起きて働きはじめる頃、酔ってへらへらしつつどろっと眠る。なにをしゃべったのかなんにも覚えていない。電話の相手はあのおっさん。


変な星 2/20/99

犬の散歩のとき、そういえば火星と木星だったか家政婦と学生だったかが急接近していやらしいことになって倒錯した甘美な誘惑とかなんとかいうような話をどこかで読んだので、ふと空を見上げるとオリオン座の左下あたりに強烈に明るい星と、まあまあ明るい星の二つが光っていた。あれかなあとぼんやり見ていると、その強烈に明るい星は突如ものすごい勢いで動き出し、オリオン座の方へ移動していく。飛行機の場合赤や青の光がちかちかするがそういうのはまったくなくただ白く光るまぶしいほどの点であり、しかもその速度は飛行機の倍ほどもある。なんやなんやと見ているとそのうちすーっと暗くなって、オリオン座の手前で消えてしまった。するともうひとつ、さっき強烈な光を見つけたあたりに今度はちょっと薄暗い感じの星があり、なんとなくこれも動いているように見える。動いているように見えるのでじっと見たいのに、薬と病院食で昨日あたりから妙に元気になった死に損ないのアホ犬が、あっちこっちと必死で動き回るので相手をせねばならず、じっとせんかドアホとののしりつつふたたび空を見ると、やはりその星もぐんぐん加速していくではないか。ひえーとびっくりして暴れないよう犬の頭を踏んでいると、その星もすーっと薄くなってさっきの星と同じように消えた。あれはやっぱり人工衛星なのであろうか。あんなに明るく見えるものなのだろうか。このところ、気持ち悪いことが多いなあ。今日の星はなんとなく興奮したけど。

そうか一人で芝居見に行くんか。


疲れた 2/19/99

なぜかわからぬが全身ひどい疲労感である。このまま死んでしまうのではないか。軽く体を動かした方が楽になるかと少し走ってみたが、やけに体が重く二三キロも走ると脚のすべての筋肉がかちかちになってしまって全然おもしろくない。汗も出ず、シャワーを浴びても悪寒がするばかりである。どこか近くの工場のせいかなんなのか、昨日あたりから空気に白檀のような匂いが混ざっており、どこへ行ってもその匂いがつきまとってずっと息苦しい。本を読んでも全然おもしろいのにあたらず、しかもあちこち評判を聞いていたりするものがなんにも感じないほどどうでもよくてこれはもしかするとぼくの方がずれてしまっているのではないかと怖くなる。ああいうのがええのかなあ。仕事も進まずいらいらする。どうも仕事場に誰かいるような物音がときどきして気が散るのである。今日は夜十二時の来客はなかったが、と書いていると一昨日不気味な話ばかりした友人から電話がかかってきた。なんとなく心配になって、などと言うので、おまえの悪い冗談のせいで気持ち悪いぞと文句を言うと、冗談ではない本当に先月から九州にいるのだ今年になってからはぼくに会ったことなど一度もないと真剣に怒る。疑うのならそっちからかけなおしてみろと言うので、言われたとおり九州のホテルにかけてみるとたしかに友人はそのホテルにいた。しかし昨日の朝こっちを出発したということも考えられるではないかと言おうとしたら「せやけど俺もなんか気持ち悪うてなあ昨日あんなことあったから」と本当に気持ち悪そうに言い、さらにまたしてもいやなことを言うのだった。「自殺した女の人、部屋中にお香たいて死んだもんやから俺の部屋まで今でも白檀の匂いがして」


夜中の客 2/18/99

このところ夜十二時頃に人が訪ねてくることが多い。一昨日は三階に住む友人がへべれけに酔って、家まで送ってきてくれたらしい仕事仲間の青年を無理矢理ぼくに紹介しようと連れてきて、あのな、コンピューターのな、やつはな、書き換えできひんやろ、せやけどな、今度買うたやつはな、音楽のやつでな、あれはできるねん。ああそう、と聞いていると、そうやねん、あのな、と言うので詳しい説明をしてくれるのかと思っていると、コンピューターのやつは、な、書き換えできひんやろ、せやけどな、というように同じ話を何度も何度もくりかえし、ときどきソファから胡座をかいたまま落ちるのだった。青年はひたすら困っていた。

昨日もやはり十二時頃に近所の友人が、いやそこまで来たからとふらりとやってきて、とりとめもない話をしているうちにやがてどういうわけかどこそこで幽霊を見たとかこんな気持ちの悪いことがあったというような話になった。国道沿いのファミリーレストランのあるあそこには昔ラブホテルがあって、そこにとある友達が女の子を連れて入ったところ風呂に湯が溜まっている。掃除できてないぞとフロントに文句を言うとそんなはずはないちゃんと掃除したと言う。じゃあ来てみろということになり係の人に来てもらうと湯は沸騰せんばかりの熱さであり、ほらみろどういうことじゃと怒ったところ、実はとその人が語るには、昔この部屋で、ある男が女を殺そうと風呂を沸騰させてそこに女の頭をつっこんだのだが女は死なず、髪の毛すべてがずるりと抜け、皮膚の剥がれた顔を悲鳴に歪めて泣き叫びつつホテルから逃げ出した女は、国道を渡って国鉄の線路に入りそこで列車に轢かれたのだという話。なんやそれ気持ち悪い話やなあと風呂の栓を抜いたとたん、そこから湯の中に大量の髪の毛がわらわらと出てきたとか。今でもときどきそのファミリーレストランの前には女の人がぼつっと立っているのが見えるとか。そういうことをいろいろ話してびびっているのに、こういう話をしていると霊が集まってくるのだそうだ、などと言い出すのでとてつもなく怖くなり、なんにもなかったらええけどな、と帰るその友人を送って玄関まで出たところ、突然すべての部屋の灯りが消えた。あまりのことに二人闇の中で凝固し、な、なんや停電か、と言うものの外の街灯や他の家の灯りは点いており、なんやろなあ怖いなあと、怖いのでいっしょについてきてもらって風呂場のところにあるブレーカーを手探りにいじってみたら灯りが点いた。偶然にしては気持ち悪いなあと怖がりながらも笑って友人は帰っていき、なにやら不気味な感じのする仕事場へひとり淋しく足を踏み入れたとき、便所の水が流れる音がした。続けざまに三度流れた。これは怖かった。便所の扉を開けてみる勇気はなかなか出ず、朝方尿意がどうにも堪えられなくなったためおそるおそる開けてみたところ異変はなかった。なんだったのかわからない。

まあすべては偶然のなせるわざなのだろうが、ああいうのは心臓に悪い。と書いているうち時刻はすでに朝の四時に近い。今日も夜中十二時頃から何度もドアベルが鳴るのだが、出てみると誰もおらず、ときどきベランダから窓をこつこつと叩く音がするのでここは二階なのになあと怯えつつカーテンを開けてみるが誰もいない。何度か寝室で物音がしたような気がして行ってみてもなんにもない。誰もいないはずの便所で水を流す音がする。気持ち悪いなあ怖いなあと思ってびくびくしているときに電話が鳴る。心臓がひっくりかえった。怖々出てみると昨日来た友人である。なんや今頃びっくりするやないか昨日あんな話するからなんか気持ち悪うてしょうがないんやぞ、と文句を言ったらその友人は「昨日?」と妙な声を出し「なに言うとるんや。まあなんかようわからんけど、実は俺先月から出張で今九州におるんやけどな」と言う。そんなアホなこいつまたいやな冗談言いやがってと苦笑していると友人は「おまえやったらまだ起きとう思うて電話したんやけど、今さっき俺の泊まっとうこのホテルの、それもちょうど隣の部屋で自殺騒ぎがあってやな。これがなんか気色悪いんや。どうやら沸騰した風呂に入って女の人が死んだいうことなんやけど、長いこと煮られたみたいでどろどろになっとったらしいんや」とことん悪趣味な冗談やなあといいかげんちょっと腹も立ったのだがそのまま聞いていると友人は声をひそめてさらにいやなことを言うのだった。「それでな、なんか怖いんはな、その女の人の遺書といっしょにな、おまえの書いた本全部きちんと並べて置いてあったんや」


図書館の本はとても汚くていろいろいらいらする 2/17/99

のんびり本など読んでいる場合ではないとわかっているのに本屋へ行くと数冊買ってしまって買ってしまうと読みたくなってだらだらあっちもこっちも少しずつ読んでしまって、それがまあおもしろければ刺激にもなろうが読むやつ読むやつつまらんのでなんという無駄な時間を過ごしてしまったのだろうと悲嘆にくれ、本を返しに図書館へ行くとやはりめちゃくちゃ暑く汗だらだらで読みたい本は全然なくそれでもやはりなんとなく数冊借りてしまって借りると読みたくなってだらだら読むとこっちはけっこうおもしろかったのだがさすが暖房の調節も満足にできぬ図書館の本だけあってときどきスナック菓子のかけらや鼻糞やイナゴの脚やスイカの皮や使用済みの浣腸やニワトリの死体などが挟まっていて汚いことこのうえない。さすがにぼくは経験がないが友人によると蛆のわいた猫の死体が挟まっていたこともあるらしい。スナック菓子をぼりぼり食いながら図書館の本を読むというようなだらしない頭の悪い顔の不細工な子供のことしか話題のない世間の狭い脚の太短いケツの垂れ下がった月に二三冊程度しか読まないくせして趣味は読書です詩も書きます「読書で幸せ本好き夫婦」などとアホが偉そうに新聞の発言欄なんかに投書して悦に入ってなんで新聞もあんなもん載せるかなあみたいな現実逃避型ボケナス主婦なんかが多いのだろうとは思うがどうにかして法的にこういう連中を殺せないものか。くそっ関係ないが思い出したぞ図書館から出てきたところでどこから見ても正真正銘アホそうな大学生くらいのぶよぶよ太ったアホそうなデブがアホそうに自転車を出そうとして数台の自転車をこかしたのだがその中にぼくの自転車も混ざっていたのだ。「人の自転車こかしたら起こしていかんかあ」と叫んで追いかけたがいかにもアホそうな知らん顔をして逃げやがったちくしょうあのデブおまえのアホ顔は覚えたからな。いらいらする毎日。


真実 2/16/99

この日記に書いてあることは本当に全部本当のことなのですかというようなメールが来た。あたりまえじゃ全部本当のことに決まっておるわしは嘘など絶対につかぬ、と言えば信じるのか君は。


おお 2/15/99

おおもう十五日。なんともう二月ははいはいはいはいわかったわかったわかりました。絶対来月もやるぞ。


バレンタインデー 2/14/99

中学三年のとき、放課後自転車置き場にいたぼくのところへ小走りにやってくると真っ赤な顔をしてチョコレートをぼくの手に押しつけ、ほんの一瞬泣きそうな眼でぼくを見つめたかと思うとそのままなにも言わずに走り去ったあの子は今どうしているんだろうかなあ。


古典芸能再発見の会 2/13/99

喜多哲士さんに誘っていただいて『古典芸能再発見の会』というのに参加する。参加すれば必ず古典芸能をきっちり再発見するまでは家に帰してくれないのではないかと恐れていたのだがそんなことは全然なく、ただぼんやりと口を開けて旭堂小南陵さんのお話を聞いておればよいのであった。さすが講談師の方だけあって話は淀みなく流れてとてもおもしろい。途中には「子供を生け贄にして鐘を作ると「かあちゃん」と鳴る」みたいな話の実演もあって非常に得をした気分である。最近は「安倍晴明伝」が大人気だそうなので、今度小南陵さんがやるときはぜひ聴きにいこうと決意する。

いろいろと再発見をしたのち喜多さんとその奥さん、喜多さんの同僚の方と四人で飲みに行ったりしたのだが、びっくりしたのは喜多さんの奥さんにバレンタインデーのお饅頭をいただいたことである。喜多さんの奥さんに、というところでまずは驚け皆の衆。喜多さんの奥さんはベランダから外を見るだけで交通事故を誘発する能力があるのだそうだが、そういう恐ろしい力を持つ人であろうと、人の奥さんであろうと妙齢の美人からなにかをもらうというのはそれだけで幸せなことである。それがバレンタインチョコレートではなくバレンタイン饅頭であることでさらに驚け。いただいたときはてっきりチョコレートだと思っていたのだが帰って開けてみるとなんとびっくり饅頭ではないか。中に入っていた紙には「饅頭」ではなく「紅白薯蕷」と書いてあった。「薯蕷」は「しょよ」と読んで山芋のことであるらしい。全然知らなかったので漢和辞典で調べたのである。続いて大辞林をひくと「薯蕷羹」という菓子が載っていて、どうやらいただいたものはこれのようだ。古典芸能を再発見した日に饅頭まで再発見してしまったのであるどんなもんじゃ。また誘ってください。


『ブルースブラザース』ディレクターズカット 2/12/99

WOWOWで『ブルースブラザース』のディレクターズカット版というのをやっていた。オリジナルより十五分ほど長いのである。録画しながら結局全部観てしまった。オープニングからして違っていた。ジョン・ベルーシが叩き起こされるシーンがある。ジョン・リー・フッカーのシーンもちょっと長いし、ローハイドのあとで"Stand by your men."と歌うところもちょっとだけ長かったし、他にもこまごまとシーンの追加があってめちゃくちゃ嬉しい。ダン・エイクロイドがサングラスではなく普通の眼鏡をかけているシーンもあった。こんなものが今頃になって出てくるんですなあ。ない方がテンポがよくていいシーンなんかも見る人が見ればあるのかもしれないが、やはりこれはジャズの名曲の別テイクみたいなもので、それなりに値打ちがあるように思う。いやしかしこの映画、何度観てもおもしろいし本当に深いところで感動する。すごいなあ。


祭じゃ 2/11/99

今日はもうめちゃくちゃに嬉しいことがあったので一日中祭である。祭じゃ祭じゃ。宴会じゃ宴会じゃ。酒に料理にお姉ちゃんに踊り、トンボチョウチョにイナゴバッタにゲージゲジ、ぶんぶの背中はびいかびか。わけわからんかかまわんかまわん飲め歌え。はっはっはなんですと明日締切の仕事。かっかっかっかまわんかまわんそのようなものは捨てておけ放っておけどはははよいではないかよいではないか近う寄れ恥ずかしがらずともよい悪いようにはせぬ顫えておるのか可愛いことよのおわっはっはあ。ぼくは生まれてこれまであんな嬉しい誉められ方をしたことはない。


硬直 2/10/99

馬鹿犬よだれにまったく元気がなくなり、からかっても全然おもしろくない。あまりにもおもしろくなくなってしまったので仕方なく近所の獣医まで連れていく。とはいえ普通の散歩のようにして連れていくと見知らぬ道を延々通ることもあり必ず途中で地べたに張りつき動かなくなることは必至で、と言って車はめちゃくちゃいやがるため自転車の荷台に段ボール箱を積んでそこに押し込めることにし、自転車を押して三十分ほどかけて歩いた。面倒のかかるアホ犬でどうしようもない。段ボールの中でのんびり座っておればよいのに、この世のあらゆることが恐怖の対象であるらしく全身硬直状態のままきょろきょろと落ち着かない。まあ落ち着けと頭を触っただけでぎくっと緊張が走る。もうすでにこの状況では飼い主まで恐いのである。大久保動物病院というところに到着してからもびびりまくって体はかちこち隙を見つけてはかりかりかりっとせわしなく逃げ出そうとする。尻に注射を打たれてもまったく微動だにせず、獣医さんが「おおえらいえらい。強いな君は」と誉めてくれたりしたのだが強いのではなくあれはあまりの恐ろしさに体がちがちに強ばってしまっていて尻に針が突き刺さったのも気づかないほどだったためである。レントゲン撮影までしてもらったが、これまたよだれにとっては死ぬほどの恐怖であったようで、じたばた逃げようとして機械の角で頭を強打したのち白眼を剥いて全身を硬直させていた。レントゲン写真ができあがり、いろいろと獣医さんに説明を受けていると、もうとにかくなんでもかんでも恐くて恐くてどうしようもないよだれは夏みかんほどの大きさに縮こまってぼくの両足のあいだに頭を突っ込んで顫えおおおうんごるるるろおーう、とアホみたいな情けない声で泣き言を言うのであった。どうやら膀胱に石が溜まる病気だそうで肉なんかを食い過ぎてはいかんのだそうだ。炎症を抑える薬と、石を除去する餌などをもらって馬鹿犬はふたたび恐怖と硬直の旅を経て帰宅する。


あわただしかった 2/9/99

電話やら来客やらであわただしかった。なんにもない日は本当になんにもないのに、なんでこうわざわざ一日にいろいろと重なるのであろうか。誰かがいやがらせしているのではないかともちょっと思ったのだが、知り合いの顔全部を思い出して全員を疑う暇もないほど今日はあわただしかった。生命保険のおばさんが来たりもした。しょっちゅうやって来てはもっとここをこういう条件に変えろとかこっちの契約の方が得だとかややこしいことを言っては帰っていくいつもの生保レディではなく、ぼくの入っている保険の担当の人であるらしい。コピーライターをやっているとき同僚の母親が生保レディだったので半ば無理矢理加入させされてしまった保険で、毎月二万円ほどが無意味になくなるので毎月悲しい。あろうことかそれの掛け金がもうすぐ値上がりするのでなんとかしましょうというようなことだった。それはもうなんとかしていただかないと死ぬのでそれはいいのだがその人「これとは他に一億円ほどの生命保険をもうひとつかけてらっしゃいますよね」などと言う。そんなはずはないこれだけやと言ってもいいやそんなはずはないコンピューターで調べたらちゃんとそう出たのでまちがいはないと言い張る。そんなこと言っても他に保険なんか国民健康保険くらいしか入ってないまさか国民健康保険で一億ももらえるはずもないのに、保険のおばさんはコンピューターで出たのだから「絶対に」確かだ、というのをくりかえすばかり。こっそり誰かがぼくに保険をかけ、保険金目当てに殺そうと企んでいるのではないかとちょっと恐い。もしそうなら他の人にして。

そうやって日頃めったにない来客中さらに布団のクリーニングどないですかというおっちゃんが来たり、置き薬置いてくださいというお兄ちゃんが来たり、市会議員の後援会と称して早々と選挙活動しているうさんくさいおっさんが市会議員の活躍する嘘臭い姿を並べたうさんくさい嘘臭い笑えるパンフレットとともに来たり、仕事の電話が何度も入ったり、女の子から昨日三ノ宮でいっしょに歩いていた髪の長い人は誰なのと詰問する電話がかかってきてあほか昨日は一日仕事場にいたと正直に言ったのに嘘つきっと叫んで電話を切られ、知らない人からおまえみたいな嘘つきは死ねという匿名メールが来たりするのである。いやがらせするなら他の人にして。


工事 2/8/99

そこらじゅう工事だらけでいらいらする。ビールがなくなってしまっているので買いにいくとあちこち渋滞でいつもの倍近く時間がかかった。仕事で焦っているときにこういうことになる。仕事で焦っているならビールくらい我慢せよというか。なるほどしかしそうもいかぬ。いやぼくは本当は飲まなくてもいいのだ。どちらかというとビールなど嫌いなのだ。毎日好きなだけビールを飲むこと、という曾祖父の遺言があるので仕方なく飲んでいるのである。そうかそうだったのかと真に受けて田中哲弥を飲みに誘うのをやめておこうと思う素直な人がいると困るので一応言っておくがなんでもいいので誘ってくださいいいですね。

それはいいのだが工事はいらいらする。予算消化のためのものだと思うのでよけいにいらいらする。しかも交通整理をしているおっさんたちの要領が悪いので頭に来る。信号のすぐそばを片側通行にしての工事で、信号が青になったときなんで向こうから来る車を先に行かせるのか。俺を先に行かせんか。まあしかし一度は我慢しよう代わりばんこがたまたま向こうの番になっているだけなのだろうとなんとか怒りを抑えているというのに次に信号が青になったとたん、ふたたび対向車を先に行かせるのはどういうことだ。巨大化して全国各地を踏んでまわりたいほど腹が立った。怒りのあまり窓を開けてアホボケ死ねと叫びそうになったが対向車の運転手が若い美人だったのでこらえ、ひたすらおっさんを睨み付けるだけにする。酒屋へ行った帰りもまた同じところを通ったので、今度さっきみたいなことをしやがったら降りていって蹴り倒して五回は踏もうと固く決意していったのだが、このときいた若い交通整理はおもしろい人で、くるくる回ったり体を低くして踊りながら王様のおとおりでござい、みたいな格好で車を止めたり通したりしていた。笑ってしまったら目が合って、嬉しそうにしていた。ええやつや。ああでなくてはならん。あれはおもろいからこれからは他の交通整理もみんな踊れ。なんとか仕事場へ帰り着き、とある編集者に電話を入れるとアホな日記など毎日書かなくていいので仕事を進めよと言われる。なるほどしかしそうもいかぬ。ぼくは本当はこんなもの書きたくないのだが、毎日かかさずアホなことを書けという曾祖母の遺言があるので仕方なくもうええのかそうかそうか二回はしつこいのか。

いったん実家へ帰ったのはいいが、仕事場へ戻るときまたしても国道が渋滞している。田舎道から国道へ出たとたん車はまったく動かず、五分ほど待ったがどうにもいらいらして我慢できない。だんだん毛深くなって変身してしまいそうなほど腹が立ってきたので無理矢理Uターンして明姫幹線という『さらば愛しき大久保町』で河合が爆走した道へまわり、ここは空いていたのでどーんとそのまま西明石駅前まで出る。遠回りをしてもしかするとかえって時間がかかったかもしれないのだが、じっと待っているのは気持ち悪いのである。それでもまだなんとなくむかむかしながら仕事場の駐車場まで来ると看護婦寮へ遊びに来ている車が出口付近に停めてあった。おかげで車を入れるのに必要以上に苦労させられる。もうこのあたりでかなり毛深くなって牙も長くなっていた。鋭く伸びてきた爪を持て余しつつ車を降り、今頃は看護婦の布団に潜り込んでけしからぬ行為におよんでいるであろうその車の持ち主を想像し、いつも必ずぼくの車が出し入れしにくい場所を選んでここに駐車するのはぼくになんらかの恨みがあるのであろうと推察し、どこに蹴りを入れれば一番よく凹んで修理代が高くつくかを思案していると驚いたことに若い男が寄ってきた。その車の持ち主らしい。なんですか、というような顔をしているが口は開かない。どこに蹴りを入れれば一番痛い思いをさせられるかそれとも喰ってやろうかと思案していると黙々とキーを差し込んで乗り込んでしまった。怯えたようにあわててエンジンをかけ、そそくさと車を発進させてどこかへ消えた。よほど俺の表情が恐かったと見える、やつも二度と馬鹿な真似はするまい、と思って少々胸のすく思いでほくそ笑んでいたのだが、よくよく自分の姿を確認してみて納得した。実家の風呂で頭を洗ったので家を出るとき冷たくて、とりあえずそばにあった母親のびらびらと飾りのいっぱいついた毛糸の帽子をかぶり、やはり寒かったのでどうせ誰にも会わぬのだからと十数年も着込んだせいであちこち穴があき毛玉だらけほころびだらけどうみても浮浪者風の毛糸のカーディガンをだらっと羽織り、きわめつけには今日の夕食の残りであるイカの天ぷらを持っていたところが父親が明日食べる予定の弁当とまちがえてはいかんというのでその紙袋にはでかでかと「これはわしのイカのてんぷらじゃ」と書いてあるのであった。恐かったんやなああいつ。


ブレーキ・ダウン 2/7/99

仕事まったくはかどらずいらいらする。いらいらするのだが犬のよだれは今なにやら病気らしく大変弱っており、裏返しても張り合いがなさそうなのであきらめてWOWOWでやっていたのを録っておいた『ブレーキ・ダウン』という映画を観る。あまり流行らなかったように思うが、主演はカート・ラッセル。J.T.ウォルシュという人も出ていて、この人の名前も顔もしょっちゅう目にしているのに他のどんな映画で見たのか思い出せない。気になる。いらいらする。誰か教えてくれ。しかし『ブレーキ・ダウン』である。大変恐いという噂をあちこちで耳にしていて期待しまっくて観たのだが、ちゃんと恐かった。血とか内臓とか呪いとか遺伝子のお化けとかはまったく出てこなくて(ま、血はちょっと出るけど)どこかできっと似たようなことは実際にたくさんあるのだろうなと思ってしまういやーな恐さだった。こういう話も書いてみたいものだ、とも思うのだが今書いているとてつもなく滞っている話は、ちょっとこれに似ていなくもないなと気づいてぎくっとした。パクリだと思われないだろうかと心配になったのだ。けど落ち着いて考えると似ているのは「理由もなく嫌な目に遭い、なにが起こっているのかわからない」という点くらいで、これならよかろうと安心する。焦っているのでなんでも気になるのである。仕事場のすぐそばで主婦が固まって笑い声をあげたりするとなにか俺のことを笑っているのではあるまいかと気になるし、カラスがアホやと叫んで飛んでいくとアレハオレノコトカナとふと思うのである。今こうして夜中にアホな日記を書いていても、遠くで誰かがぼくの悪口を言っているのが聞こえたような気がするのである。いや。今のはたしかに聞こえた。誰や。


また天満に行けなかった 2/6/99

出かける用意を完璧に整え、尖らせた傘もちゃんと用意したというのにちょっとしたアクシデントが発生して今週も天満に行けなかった。ぼくを天満に近づけまいとするなんらかの呪詛ではあるまいか。誰かがぼくのことを疎ましく思っているのにちがいない。誰や。知り合い全員の顔を思い浮かべて全員を疑う。誰や。そんなことするから友達がいなくなるんですよほっといてくれおまえなんか友達やない。


巨大な鼻糞 2/5/99

かなり前から鼻の奥がむずむずするなあと思っていたのだが、今日起きてすぐ思い切り鼻をかんだところその勢いで巨大な鼻糞が飛び出た。似たようなことはたびたびあって、ばすっというような音とともに人差し指の爪ほどの鼻糞が出てきたなどはほぼ毎日のことである。しかし今日のはすごかった。ばすっというようなものではない。ばふっむりむりずぼっという感じでまるでしっかり固い大便を排泄するがごとき出方であった。出てきたものを見た瞬間、当時まだ健在であった母方の祖母に十数年前食いたくもないのに熱心にすすめられしようがなく食べた干しバナナが、消化されずに眼の裏に溜まっていたのかと思ったほどである。どういうわけか父方母方に限らず祖母というのはやたらとなにかを食わそうとした。干し杏とか干しリンゴとか、ああいうものどこで買ってきていたのか今となっては謎である。それはともかく鼻から出てきた直径約1.5センチ、全長7センチほどの黄土色をしたゼリー状の鼻糞は干しバナナよりは色が薄く水気も多くぬるりとしている。こんな大きなものどうやって鼻の奥に入っていたのだろうと不思議でならない。しかも鼻の奥の側であった部分には毛細血管を思わせる赤く細いぬるりとしたものが癒着していて、端へ行くほど枝分かれしている。鼻糞に血が混じっていることはときどきあるが、それとは違いなにやら木の根っこを引き抜いたみたいな感じなのである。さらによく見ると枝分かれした筋の端の部分はすべて引きちぎられた断面を見せており、断面からは濃い茶色をした液体が滲み出ている。そして息を吹きかけるとその触手状のものはしばらくもぞもぞと動くのである。掌に載せてじっとその様子を見ていると、驚いたことに鼻糞は尺取り虫のように体をくねらせて、ぼくの腕を這い上がろうとする。どうやら鼻に戻りたいようなのだ。あまりに気持悪かったのでわっと叫んで振り落とし、スリッパで踏んだところぶちっと音を立てて炸裂した。焦げ茶色をした粘液が半径二メートルほどの範囲にわたって撒き散らされ、部屋中大変なことになってしまったが、それよりもっと気持ち悪かったのは潰れる瞬間鼻糞が金属をこするような声で「てつや」と言ったことである。あの鼻糞はなんだったのだろう。


寒波 2/4/99

昨日からめちゃくちゃ寒い。寒いのは苦手だ。暑い方がまだ我慢できる。ここまで寒いと眠ると死ぬので眠るわけにもいかぬ。今、朝のちょうど六時であるがこうしていても吐く息は真っ白であり、ところどころきらきらと光るのはダイヤモンドダストであろう。手はかじかんでキーボードを打つのもままならず、しかもキーボードは凍り付いて打鍵するたびがしゃがしゃと妙な音がする。うっかりマッキントッシュ本体の金属部を素手で触ろうものなら超低温のせいで指や掌の皮膚が張りつき、あわてて離すと手の皮膚がべろりと剥がれてしまう。涙が凍るため視界が歪み瞬きがしづらく、鼻の中は完全に凍っていてきりきりと痛む。くしゃみをすると飛び散った唾液が瞬時に凍り、氷と化した唾液は壁に突き刺さって小さな穴をいくつも空ける。体が思うように動かないので仕事もできず、仕方がないのでバナナで釘を打ち、薔薇の花や軟式テニスボールを粉々に砕いては遊ぶ。車も自転車も路面の凍結および積雪のせいで動かせず、実家と仕事場の往復には犬ゾリを使う。三往復もすると犬が凍ってしまい、使いものにならないのでバナナで叩き割って遊び、なるほど犬の内臓はこのようになっているのかと感心しつつ空を見上げると見事なオーロラが輝いていた。明日からは極夜である。眠るわけにはいかぬ。とにかく寒い。

なるほど白夜の反対は極夜というのであったか。まあなんにしろ寒いのである。鈴木さんどうも。


ひよこ饅頭 2/3/99

実家に帰るとひよこ饅頭があった。ひよこの形をした饅頭であるそうそうあれあれ。どこかの土産にもらったらしい。いつ食べても大変おいしいと思うがそんなことよりひよこ饅頭と言えば思い出すのは笑福亭鶴瓶氏である。誰がなんと言おうとひよこ饅頭と言えばぼくの中では笑福亭鶴瓶なのである。ずいぶん前だが、鶴瓶氏を香港へ連れていって満漢全席を食べさせようという企画のテレビ番組があった。嘘か本当かはわからないが鶴瓶氏は中華料理が大嫌いということで、普通のこの手の番組であればおいしいおいしいと必要以上に喜んで食べるところを、この人は口にした高級料理を平気でべべっと吐き出して「なんやこれほんまに食いもんかいな」などと言うし、非常に珍しいナントカカントカを「まっずー」と言いつつでろでろと皿に吐き出した後「なに日本の料理に例えたらどんな味かてか?」とスタッフからの質問にむすっとすると突如怒りを露わに「こんなへんなもん日本にあるかぼけえっ」と食い滓飛び散らせて怒鳴ったりしていた。それはそれでおもしろかったのだが、問題はその途中に香港の著名人がゲストとしてずらっと並んだときで、はっきり覚えていないが香港のえらいおっさんその一、ミス香港その一、ミス香港その二、香港のえらいおっさんその二、そして鶴瓶氏、というような順番で円形のテーブルについていたわけである。それを鶴瓶氏が日本語で、まず香港のえらいおっさんその一を「香港のナントカカントカのナントカカントカさんですう」と、紹介するとおっさんはにこにこと嬉しそうにお辞儀をした。テレビクルーも拍手をしたりしていたようである。続いて「ミス香港のナントカさんですう」とミス香港その一、続いてミス香港その二も紹介する。紹介されるとふたりとも自分が紹介されていることだけはわかるので、嬉しそうにお辞儀をした。ここまではあたりまえの風景であった。笑ったのはそのあとだ。最後に残ったおっさんは小太りで耳の上だけに少し毛が残ったハゲ頭で色白で下膨れの顔をしており、それまで三人を紹介してきたと同じリズムで鶴瓶氏はそのおっさんを指してあろうことかさらりと「ひよこまんじゅうですうー」日本語なのでおっさんにはわからない。ちゃんと紹介してもらったものと信じた「ひよこまんじゅう」は満面の笑みを浮かべ、テレビに向かってこの上ない光栄でありますと言わんばかりのお辞儀をしたのであった。あんな失礼きわまりない冗談はないと思うのだが、よくもまああんなこと言ったなあと死ぬほど笑って感心して、それ以来ぼくは鶴瓶氏を大変尊敬しているのである。しかしあれはあかんやろ普通。なあ。


風呂で死にかけた 2/2/99

昨夜は実家でスーパーボウルを見ていたせいで、仕事場に戻ったのが夜中の二時頃。いつもは十時半くらいに戻るのだが、それと同じ調子で仕事したり人の日記を読んだりしていると朝の六時を大きく過ぎてしまい、風呂はあきらめてシャワーにしたがビールを飲んで本を読みつつだらだらしているとベッドに入ったのは八時過ぎであった。ところがこういう日に限って電話が鳴る、出ないので誰からの電話かは知らぬが鳴ったことはわかるのである迷惑な話である。しかも次々と誰かが来る。誰が来たのかは知らぬが呼び鈴が鳴るので誰かが来たことはわかるのであるうっとうしい話である。どうせ浄水器か生命保険だろうと思うのだが、なぜかこいつらは十一時くらいに来ることが非常に多く、そのうえドアをがたがたさせたり何度も呼び鈴を押したりしつこいのだしかも絶対若い美人ではない。電話も仕事に関係のないのは十時から十一時頃というのが非常に多いしかもたいていはまちがい電話でありしかも絶対若い美人ではない。というわけで結局十一時半には眠れなくなってしまい、全身だるいのにぼうっとしたまま起き、当然このような状態で仕事がはかどるわけはなく、なぜか体のあちこちは痛いし、飯を食うと眠くなるし、寝ようと思うと筋肉がこわばっていて眠れないし、外は寒くてジョギングはおろか散歩もしたくないような風が吹いているしで一歩も外へは出ずだらだらと夜を迎え、どもならんなあ今日はもう早めに風呂に入って早く寝ることにしようと考え早めに風呂に入って死にかけた。本を読みながら眠ってしまったのである。バスタブの端に頭を載せ、脚を軽く曲げた状態で、本は途中まで開けた風呂蓋に凭せかけるようにしていたところ、尻が滑ったんですなあ眠ってから。しかしその瞬間はそんなことなんにもわからない。母親の背が低いような気がしてよく見ると母親の踝から下は萎縮してしまっており、足の甲の上に新しい足が重なるようにして生えてきているのだがなんとその新しい足の先からはそれぞれの指が細く枝分かれして各指四本ずつ生えているではないか片足で二十本も細い小さな指があるなんで四本ずつまとめてくくっておかなかったのだ放っておいたため独立した指が成長してしまっているぞこれはもう手遅れだ下手をするともっと枝分かれしてしまう、というような夢を見ていたため意識はベッドの上で寝ているつもりである。数十メートルをいっきに落下する恐怖にはっと目覚めた瞬間顔は風呂の底、息ができず足は空を蹴りなぜか手はちんこを掴む。がばっと開いた口に湯が入り鼻からも入り視界はぐにゃぐにゃ。なにが起こったかわからずやみくもに手足をばたばたさせて風呂蓋を蹴飛ばし、どんがらがっしゃという音でやっと事態を把握し顔をお湯から出すことができたがへんなところに水を吸い込んでしまっていてげほげほと噎せかえる。溺れるというのはああいうことなのだなあと生まれてはじめて理解した。おかげで以前湯船に落として腹立ちのあまり踵で百回全力で踏んだため二度と読めない状態になってしかたなくもう一冊買ってきたロバート・ブロック編『サイコ』はまたしても湯船のそこでくらげのようにゆらゆらと揺れているのであった。まだ半分しか読んでないのに。


スーパーボウル 2/1/99

見ましたかスーパーボウル。仕事場のビデオデッキが壊れているので実家の方で録画しておき、今日は一日いっさいテレビを見ないようにして新聞も読まず情報を完全にシャットアウトし、生で見ているつもりになっていっきに見た。と言っても別にどこのチームのファンであるとか、ずっと誰かを応援していたとかというようなことはまったくない。年間の試合の組み方もよくわかってないし(ときどきAFCのチームとNFCのチームが当たるというのがよくわからん)いまだにルールがよくわからないところがあったりする。たとえばときどき出てくる3rd Down Conversionというのはなんなのか知らない。フォーメーションをここで変更するということだろうか。しかしそもそもアイフォーメーションだのショットガンフォーメーションだの言われてもどこが違うのかよくわからない。わからなくてもいいのだ。あれはアメリカのごついでかいおっさんたちが広い場所でどんがんぶつかりながらボールを投げたり持って走ったりしてとにかく四回以内の攻撃で10ヤード進めばもう一回最初から攻撃ができ、敵陣地まで入れば点になる、くらいの認識で見ていても充分おもしろい。しかしスーパーボウルはやっぱりすごい。なにがすごいと言うて最初の国歌からしてすごい。今回はシェール(だったかな。『月の輝く夜に』の主演をやっていた人。関係ないけどこの映画は好きや)が歌っていた。なんだか知らないがアメリカの歌手は国歌を自分勝手に変えてしまうのである。何年前だったかナタリー・コールが歌ったときなんか後半「アアーメエーリカ、アーメエーリカ」と言うておるだけでもうまったく全然違う歌であった。おいおい全然ちゃうやないかと全米の人が突っ込んだことだろうと思うがしかしそれがまたかっこよくてぞくぞくする。今年もぞくぞくした。必ず最後の一番盛り上がったところで上空を軍隊のジェット機が編隊を組んでぎょわーんと飛んでいく。ああぼくなんでアメリカ人ちゃうんやろう、と悔しくなる瞬間である。今年はちょっとタイミングが遅かったうえに一機少なかったように思ったがあれでよかったのかなあ。それからテレビ放送の字の出方がかっこいい。そんなもんどうでもええやないかと思うあなたの人生は寂しい。あれを見るだけでも嬉しいのが楽しい人生である。そんなんおまえだけやと言うかほっとけあれはすごいんじゃ。点数や残りヤード数なんかも、日本の野球中継みたいに字がぼそっと出るのとは大違いである。なにやらそれは金属製のカプセルのようなものなのである。精密な造りになっているらしいそのカプセルがシャキーンと音を立ててスライドすると、中に点数が書いてある。下に引き出し状のものもあって、それがスライドすると残りヤード数が出る。そして点が入ったりしたときにはそのカプセルが閉じて回転しながら画面の下へと舞い降り、ガキンガキーンなどと言いつつ大きく変形し、チーム名入り点数表となるのである。リプレイのときは立体的なスーパーボウルエンブレムがシャイーンと唸りをあげて回転しつつ画面を横切り、リプレイが終わるときにはこれも立体的なNFLのエンブレムがやはりシャイーンと回転する。もっとすごかったのは選手紹介で、これはあなた見たらほんまにびっくりしますぞなんとエンドゾーンの下に地下秘密基地があるかのように、まるで今からロケットがそこから発射されるかのように、重そうな蓋がグイーン(効果音)と開いてですなあ、エンドゾーン下から塔のような看板がズイーン(効果音)とせり上がると、そこに選手たちが映っていておどけていたりするのでありますぞどうやこれめちゃくちゃおもろいがな。感心するのはちゃんとカメラは動きながらそれを映しているということである。あれはほんまにすごかった。うちの母親なんか「あんなとこ開くんやなあ」と驚いていた。いくらCGであると説明しても「へえ、あの蓋シージー言うのん」と感心するだけであった。うちの母親が馬鹿なのではなくそれくらいよくできていたのである。そしてどうじゃまいったかのハーフタイムショーである。今年はスティービー・ワンダーとグロリア・エステファン。これだけでも見て得したなあと思う。副音声にして英語の解説だけを聞いていたい(なにを言っているかは皆目わからないけど)のに、向こうでの放送がコマーシャルに入ると勝手にどういうわけか大橋巨泉の声が入ってくるのはいただけないが、たとえばこれが民放の独占中継みたいなことになってしまうと生中継ではなくなるだろうし、アホみたいなタレントがずらりと放送席に並んでどうでもよいことをだらだら喋ったり、途中に各チームの地元の名所名物を紹介するアホ丸出しの女性アナウンサーが「わたしが今いるところわあ」とか言ってホットドッグやピザなんかを下品な食い方して外人のおっさんにキスされたりしてぎゃあぎゃあはしゃいだりするボケナスコーナーが挟まったりするに違いないのでときどき入る大橋巨泉くらいならまだ我慢できる範囲なのである。ああ今日は楽しかった。なに試合か。ああ、なんかどっちか勝ったようじゃな。まあええやんそんなことは。



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