第3幕

第1場

(突然鳩が逃げるように飛び退き、蛇が顔を出す)

ハンス

どうしたの、リーデルト
うわっ

Oph

おやおや、驚かせてしまったな
大丈夫、怖がらなくてもいい。この蛇はおとなしいから

(星座絵Oph ON)

ハンス

あ、あなたは?

Oph

私は、アスクレピオスという者だ。こうして、夜空を巡っている
どうやら、君は病を持っているようだね

ハンス

え、分かるんですか?

Oph

これでも、地上にいた頃は医者だったのでね
見ただけで体の具合はよく分かる

ハンス

お医者様なら、どうか、お願いがあるんです
僕の病気を治してもらえませんか?

Oph

君の世界の医者に頼むべきではないかね?

ハンス

ええ。でも、先生達も手を尽くして下さるのですけど…
お願いです、僕を診てください

Oph

…確かに、私は多くの者を癒した。死者をも甦らせもした
だが、今の私にその力はない
人がその与えられた命以上のものを得ることを、神々は喜ばぬのだよ
私は、技と命とを奪われてしまった

ハンス

それでは、僕はもう…

Oph

私には分からない。それが運命ならば、仕方ないことかも知れぬ
私の足元を見たまえ、赤く輝く星は蠍の心臓だよ
《αSco 写真あってもよい》

(星座絵Sco ON)

あの蠍は、ある若者の命を奪うため、遣わされたものだ
運命は時に、人に冷酷なものだ
(ハンスの落胆を見て)
残念ながら、私は何もしてやれない
だが、この夜空は、多くの英雄も不滅の神々も住まうところ
もしかしたら、この宇宙のどこかに君を治す方法が見つかるかも知れぬ

ハンス、さあ、先へ行きましょう

Oph

気をつけておいで…

(ハンス、リーデルト、さらに奥へ)




第2場

(竪琴の調べが流れてくる)

ハンス

なんて綺麗な音色だろう。誰か、いるのかな

Lyr

おや、君は?

(星座絵 Lyr ON)

ハンス

あ、僕は、ハンスと言います
病気を治す方法を探しているのですけれど…

Lyr

そうか。…まだこんなに幼いのに

ハンス

あの、あなたは、何をしているのですか?

Lyr

私か。私は、亡き妻のために、歌っているんだよ

ハンス

Lyr

(微笑) 優しい子だね。そんなに悲しそうな顔をするものじゃない
今は私も、この世の身ではないのだ
一度は冥府まで追っていった妻も、近くにいるよ

ハンス

冥府まで?

Lyr

うん。しかし、冥府の扉は、再び開かれることはない
人は、一度その生を全うすることが務めなのだ

ハンス

僕も、もうすぐその扉をくぐって、もう帰ることはないのかな

Lyr

昨日生きていたものが、明日は黄泉の国にいるとしても、
この世界では不思議ではないさ。無情なことだね
でも、見てごらん。光の帯が、見えるかい

ハンス

あれは…。天の川?

《天の川の写真》

Lyr

そう
あの光は、この世に生きた人々の魂が寄り添って、
流れているんだと思ってごらん
ほの明るい光の暖かさが分かるかい
有限な人間の中にも、きっと不滅なものはある
あの流れから生命を汲み取って、君に注いでやりたいのだが…

ハンス

ありがとう
でも僕、もう少し旅をして、探してみます

Lyr

そうか
旅の平安を祈って、君のために歌おう
星空に調べを聞いたら、思い出しておくれ
私の名は、オルフェウス

ハンス

さようなら
さあ、リーデルト、行こう

(鳩の鳴き声と羽ばたき。奥へ)




第3場

Vul

へえ、人間が来てら。珍しいなあ

(星座絵 Vul ON)

ハンス

き、キツネ? こぎつねだ…

Vul

こぎつねで悪いか。これでもれっきとした星座なんだぜ

ハンス

あ、ご、ごめんなさい

Vul

人間のあんたが…おい、名前は?

ハンス

…ハンス

Vul

で、何でこんなところに来てるんだ、ハンス?

ハンス

それは、気がついたら空で…
それで、ええと、神様に病気を治してくれる方法が…
(気後れしてしどろもどろ)

Vul

なるほどね
だけど、云っちゃ悪いが、ここの神様は皆過去の栄光に生きているのさ
不死の身の連中には、生きた人間の悩みは分からないもんだ

ハンス

じゃあ、このまま病気が治らないのが、僕の運命なのかな?

Vul

嫌かい? ああ、そりゃそうか
そんなら、運命に噛みついてやることだね
それが出来なきゃ、運命とやらに従うまでさ
見えない明日なんか嘆くより、今を精一杯生きるのだって、
確かに一つの生き方だぜ
こんなところで生きていない連中の話なんか聞くよりはさ

ハンス

そうだね
うん、でも、ちゃんと生きるために、もう少し探してみようと思うんだ

Vul

ほら、少し顔色がよくなったな。その調子だよ
土産をやろう。そら、受け取りな

《M27 写真》

俺の宝物なんだぜ。綺麗だろう
そうそう、そこにふんぞり返っている鷲は、偉い神様らしいから、
何かためになること知ってるかもよ
じゃあな

(Vul退場)




第4場

ハンス

あ、あのぉ…

(星座絵 Aql ON)

Aql

お前が、ハンスか

ハンス

え、僕の名を…?

Aql

神の神たる我ゼウスに分からぬことはない
病を治す方法を探しているのであろう

ハンス

ええ、あの、あなたなら、ご存知でしょう

Aql

地上のことは地上で、人間のことは人間の間で行うがよい
ここはまだ、お前が来るところではないぞ、小僧

ハンス

でも…

Aql

地上に戻れ。生きるとはそういうことだ。分かったな

(Aql飛び去る)

ハンス

ああ、行ってしまわれた




第5場

ハンス、さあ、奥へ

ハンス

でも、こんなに遅くなってしまった
(鳩に) リーデルト、僕たちもう帰らなくちゃ
(見回して) 家は何処だろう。どっちから来たんだろう

ハンス…
足元をご覧なさい
ずっと下に見える光は、地上の星々です。人々の暮らす光です
さあ、ご覧。あなたの窓もその中にありますよ

ハンス

あ、僕の部屋だ。父さん、母さん、それに先生もいる
あれ、ベッドに寝ているのは…

(ハンス、一瞬言葉を飲み込む)

あなたはもう病気ではありません
あなたの体は今羽根よりも軽くなっているでしょう

ハンス

本当。体がこんなに軽いのはどれくらいぶりだろう
でも…

さあ、もう少し旅を続けましょう。夜は…永いのですから

ハンス

(明るさを取り戻して) うん。行こう、リーデルト




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