Undine

2000. Water color

ドイツ後期ロマン派の作家フーケーの小説「ウンディーネ」に最初に出会ったのは中学のころ。
ある書評に引用されていた結末の一説に、なぜか心引かれ、文庫本を求めた。

「みんなとりとめもない夢だ」と騎士は独り言を言った。「もう花嫁の閨にはいらなければならない。」
「はいらなければなりません。でもそれは、冷たい閨です。」 部屋の外から、涙声でそう言うのが聞こえた。それから、扉が徐かに、徐かに開き、さまよう白衣の女がはいって来て、そっと掛け金をかけるのが、姿見に写って見えた。
「あの人たちは泉を開けました。」と女は小声に言った。「それで私はここへ来ました。あなたはもうお命がございません。」
騎士は、心臓がだんだん止まって行ったが、こうなるより仕方がないのだと心に感じた。けれども両手で顔を覆って言った。
「いまわのきわに、恐ろしさで気を狂わせないでおくれ。お前がそのヴェールの下に恐ろしい顔をしているなら、それを脱がずに、顔を見せずに、私を裁いておくれ。」
「まあ、それではあなたは、もう一度だけ、私を見てやろうとはお思いになりませんの?私は今も、あなたが岬で言い寄った時と同じく、美しいのです。」
「ああそうだったらね」と言って、フルトブラントは溜息をついた。「そして、お前に接吻をしてもらって死ねたらね。」
「あなた、喜んでしますわ。」
女はヴェールを払った。愛らしい顔が、神々しくも美しい微笑をたたえて、現れた。恋しさと死の近づきに慄えながら、騎士は女に身を凭せた。女は騎士にこの世ならぬ接吻をした。 しかしもう騎士を放さなかった。ひしと男を抱きしめて、魂も尽きるまで泣こうとするかのように女は泣いた。その涙は騎士の眼に入り、快い痛みのうちに、胸を通って波うった。 とうとう騎士は息も絶えて、美しい女の腕から寝床の枕の上に骸となって、しずかに倒れた。
「あの方を涙で殺しました。」


騎士フルトブラントと水の精ウンディーネとの悲恋は、御伽噺にありがちな、いかにもロマン派的な甘美な悲劇だった。使い古された、とさえ言えそうなこの物語が、けれどもどうしてか心に残った。
それから数年を経て、ふと目にした自室の本棚に、今もその文庫本はあった。手にとって開くと、そのあまりに純朴なまでの悲しさに、不覚にも涙しそうになった。
それから、Reineckeのフルートソナタ「Undine」のディスクを買い、Henzeのバレー、Hoffmannのオペラを手に入れた。何かとウンディーネの物語を探し、あまつさえ、某所である作品の二次小説に 取り上げもした。求めたかったものは、あるいは、190年前にフーケーの手によって涙を与えられたウンディーネに、今一度笑顔を与えたかったのかもしれない。

この絵は、妖精画家で有名なイギリスのアーサー・ラッカムによるウンディーネの挿絵を見てインスパイアされたもの。 女性を美しく描く技術はないのだが、友人の写真を見ながら筆を進めた。と言って似せたわけではない。けれどもこの絵には、本当に描きたい者への憧れがこめられているのかもしれない。

Sommerabend (Gedicht des Heine.)


All Illustrated by Sei NAITOH