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虚航船団パラメトリックオーケストラ『ビバルディの秋』 10/31/99

 仕事に邁進していたためわざわざ天王寺まで芝居を観にいく余裕などあろうはずもなく、ましてやそのあと梅田で飲むなんてあなた。というわけでよくわからない。北野勇作さんの演技を初めて見て感心したり、先生役の永瀬葉子さんという方が実に可愛らしくて好みやなあと思ったり、もしも行ってたらそうであったのではないかなあと想像するばかりであります。

まだ蚊が 10/30/99

 どうなっているのだろうかまだ蚊がいた。さすがに寒さのせいか動きは鈍く、両手で挟むように叩くと潰れて死んだ。ざまあみやがれ。どうやら先月あたりからずっとちょこまかと飛びまわり、二十から三十カ所も刺しやがったのはこいつだったらしい。叩き潰したとたん、これまで吸った血液がどっと破裂して飛び散った。蚊の体というのは小さいくせにとてつもない量の血液を溜め込めるものらしい。びっくりするほど大量だったので大変なことになった。顔中にかかった血のせいで一瞬目の前が真っ赤になり、鼻や口からも大量に吸い込んでしまって噎せかえる。なんとか目を開けて見てみれば髪の毛から着ているものまですべて血まみれ、部屋の床も壁も天井も真っ赤である。血は膝下あたりまで溜まっており下の階の人には天井から血が降ってきて困ると苦情を言われ、大急ぎで外の階段へ流したところ表の道を歩いていた小学生三人が血に流されて溺れそうになりあわてて助け出し、親まで出てきて子供を殺す気かと怒るので平謝りに謝っていると前にもあったなあこんなこと。

『バッド・ムーン 新狼男伝説』 10/29/99

 WOWOWでやっていたのを夜中に観る。人狼ものは好きなので、かなり期待したのだがいやはやものすごかった。マイケル・パレが主演で狼男。マリエル・ヘミングウェイという女優がマイケル・パレの姉の役でヒロインなのだが、めちゃくちゃ不細工でワニかと思う。
 ジャングルでセックスの最中狼男に襲われたマイケル・パレは、アメリカに帰ってきても夜になると(月には関係ないのだそうだ。でもタイトルは"Bad Moon")狼男に変身して理性を失うが、人を殺すのを恐れて変身前に自分を手錠で大木にくくりつけておくほど普段はまともである。にもかかわらずこのワニの顔をした姉は、あなたは私の家族だもの、とか言って抱き合って再会を喜んだりしていたくせに自分の弟が狼男だと知るや悲しむこともせずただひたすら怯え、変身した弟が自分に襲いかかってくるとまったく躊躇なく鉄砲で撃ち、犬をけしかけ、結局森の奥で人間に戻ったマイケル・パレは犬に噛み殺されるのだ。ラストではワニ女とその息子が、家族であったはずのマイケル・パレのことはすっかり忘れて犬を抱きしめながらおまえは命の恩人だわ、と幸せそうに微笑んでいるのだった。マイケル・パレも最初から最後までなにを考えているのかよくわからず、とにかく笑えた。おすすめ。


日野啓三『抱擁』 10/28/99

 引っ越し荷物からまたしても思わぬ宝が出てきた。日野啓三『抱擁』(集英社)の初版である。と思って見たら第三刷だった。誰かに貸してそのまま返ってきていないのだとばかり思っていて、あれは初版だったのになあちくしょうと思いつつやはり手元に欲しかったので古本屋で見つけたときまた買って、二冊目を買った直後に文庫が出たりしてなんともいえない気分になった思い出の本である。あとで買った方が初版で、それを誰かに貸したのかなあそれも今手元にない。
 日野啓三氏の本を読んだのはこれが最初だった。それ以来あれこれ読んで、どの作品も大変好きなのだがやはり最初の興奮は忘れがたい。今でもこの小説はめちゃくちゃ好きだ。装丁も美しくて、本そのものが愛おしく感じられるほどである。ああうらやましい。
 ところでこの本、大学の学生生協で買ったのだが蛙の好きなあの方も同じ場所でこの本を買ったのではありますまいか。

むっとするメール 10/27/99

 ときおり、読んだ瞬間むっとするメールが来る。よく読むとファンメールらしいのだが読んだ瞬間なんとなく腹立たしい文面なのである。くそっ。普段なら少々むっとするだけで無視できるのだが現在のように、とりあえず内容も文章もどうでもいいのでとにかく終わらせさえすればよいいやしかし物語としてはまだ中盤でしてどう考えてもあと百枚はいやいや枚数的にはもうあとちょっとでよいのでとにかく今日中に終わりましょうでなければ明日というような強引な話が数時間おきに襲ってくるというわけわからんプレッシャーの中では、むっとするだけではすまず逆上する。殴りかかりそうになるがもちろんメールに殴りかかるというのはかなり困難なことであるのでいきおい代替物を探すことになるのだが、メールを読むのは仕事場であり、いくら腹立たしいからといってもわざわざ二十分ほどもかけて実家まで帰りアホ犬よだれを蹴る、あるいは踏む、あるいは裏返す、あるいは窒息ごっこをする、あるいは目の前で肉類魚類をむしゃむしゃ食って恨みがましくきゅうきゅう鳴くのをにやにや眺めながら「おまえは肉や魚食うたら小便がつまる病気やから食うたら死ぬねんで、こんなうまいもん食べられへんねんかわいそうになあ」と言いつつ水だけ入れてやる、というようなことをする余裕も今はない。怒りを発散させる方法がない。どうしてくれようかと思う。
 はじめまして日記読んでいます。ところで最近の日記いまいち迫力ないですね。更新もあんまりされないし、さすがに息切れでしょうか。もっとがんばって仕事せずにだらだら嘘ついてアホなこと喋ってビールばっかり飲んでください。せんせーのアホはゲイジツだと思います。日記に書いてたけど失礼なメールって腹立ちますよね。ぼくも大学の後輩がそういうメールを送ってきたので裏返してやりました。せんせーの本の方はまだ読んだことがないのでそのうち暇になったら読もうと思います。でも本屋で見ることがじぇんじぇんないので手に入りましぇーん。どこに行けば手に入りますか? 
 一冊やるから来い。

あーいーやー 10/26/99

 仕事場の外で「あーいーやー」と声がする。何度もする。幼い子供の声である。これはすてきなちょいといかす、一節聞いたらどんぴしゃりと歌いそうになって耳をすませたが歌声は聞こえず、いやしかしなぜ今子供があーいーやーなのだろうかと気になった。「ポンキッキ」とか「お母さんといっしょ」でミスハワイ特集でもやって幼児にブレイクしているのだろうかと窓を開けて首を突きだしよくよく聞けば「もーいーよー」と言ってかくれんぼをしているのだった。はっきりしゃべれ。

生まれて初めて書いた小説 10/25/99

 引っ越し荷物の整理は続く。
 小学校の頃のノートが出てきた。「デザイン」と表紙には汚い字で書いてあって、サイボーグ009の絵などがぐちゃぐちゃと描かれているのだが中に一編短編小説があった。これはよく覚えている。小学校四年生の夏休みに書いたのである。もしかすると三年生だったかもしれないがほとんどひらがなで読点がいっさいない。そしてなんとこれが時代ホラーなのである。一部を抜き出してみると。
 その男がけんかをするといったらみんなみにいきました。その男の名はますけといいました。ある日その男がけんかをしましたそのひのけんかのやりようといったらひどいもんでしたもうころしているようでした。その日ほんとうにますけはころしてしまったのです。ひどいころしようでした。手や足やくびなどはほうちょうでバラバラでしたそのちぎれたかおからは目がえぐりだされていました。
 さぞかしいやな小学生であったであろうことは容易に想像がつく。
 この話がどういうラストを迎えるかというと「いつも悪ぎがあってけんかをしていたわけではなかったますけ」は大変なことをしたとあわて、殺した相手の体を拾い集めるのだがどうしても首だけは見つからず「でもいいと思ってほっておきました」妙に大雑把なところのあるますけが家に帰って「ねどこにはいってやすもうと」すると枕が固い。なんでかなと思っていると枕から血が噴き出してきて、中を見ると髪の毛がつまっており「もっとひっぱってみるとさっきころした男のかおがでて」くるのである。「そのきみのわるいことがおこってからますけはけんかをしなくなりました。」殺人者は罰せられることもなく終わるのであった。

『世界ショートショート傑作選』 10/24/99

 依然として片づかない引っ越し荷物をごそごそやっていたら講談社文庫『世界ショートショート傑作選』全三巻(各務三郎編)が出てきた。この本はまだ売っているのだろうか。どんな話が載っていたかほとんど忘れてしまっているが、第一巻に載っているウィリアム・P・マッギヴァーンという人の「死刑囚監房」だけは、なにかにつけ思い出すほど印象が強かったのでよく覚えていた。妻と友人に陥れられ無実の罪で死刑を宣告された男が、死刑を一時間後に控えた監房の中で異次元の人間と接触する。声だけしか聞こえないものの異次元の人々はどうしようもないほど善良な連中らしく、事情を聞いた異次元人は男を助けてくれようとするのだが……という話である。
 この作者は調べてみるとミステリの人のようだが他には読んだことがない。ふたたび巡り会えたのもなにかの縁だろうから探して読んでみることにしよう。もしかしてめちゃくちゃ有名な人なのかなあ。ディ・キャンプも翻訳するまでなんじゃはいはい「翻案」するまで知らなかったしなあ。ぼく馬鹿かなあ。

大変おいしい外国の十二指腸の缶詰 10/23/99

 とにかくめったに食えないほどうまいものなのだが、大量に手に入ったので食べに来ないかと近所に住む友人夫婦に電話で誘われたのである。非常に興味が涌いたのでいそいそと行ってみたらビーフシチューだった。

健康チェック 10/22/99

 明石市から「コンピュータ ヘルスチェック」という小冊子が送られてきた。細かい項目をチェックして送り返すと、その回答を元に健康状態や生活習慣を分析し、病気の予防に役立つ情報をふたたび送り返してくれるというものであるらしい。
 質問は三百項目以上もあって圧倒される。「かぜをひいていないのに、せきやたんが続く」とか「真夏でも手足が冷える」などは、普段さほど気にはしていないがたしかに言われてみればそんな気もして、もしかするとそれが大変な重病の兆しであるかもしれないのでチェックしておいてよかったなあ、というのはわかるのだがたとえば「最近、血を吐いたことがある」「眼球がとび出したような顔つきになってきた」「急に胸が痛くなり、このまま死ぬのではないかと思ったことがある」などになってくるとこれはもうはっきり病気ではないのか。予防云々というには手遅れだと思うのだがなあ。普通「このまま死ぬのではないかと思った」りすればこんな面倒なアンケートに答える前に自発的に医者にいく。
 「先生、うちの子供が滑り台から逆さに落ちて腕の骨が皮膚から飛びだして折れているんです」「あー、それは骨折です」みたいな感じ。

『俳優』 10/21/99

 肌寒くなっきたのでシャワーですまさず風呂に入って本を読もうさてなにを読もうかなあ短編集がいいなあと思っているところへちょうど異形コレクション13『俳優』が送られてきた。前の『GOD』は結局最初に郵便で送ってもらったはずの分は届かずじまいで、先日うちの父親が郵便局に文句を言ったら小包は委託業者に任せているので仕方がないみたいな返答だったそうである。委託業者が悪いのであってぼくはなんにも悪くないもーんということか。死ね。
 というわけで『俳優』だが、まだ風呂に入ってないので読んでないのである。

ペプシのR2-D2 10/20/99

 とある親切な方が、ペプシでもらえる「動くR2-D2のボトルホルダー」の当たりが二枚出たので一枚あげましょうと送ってくれた。どうじゃうらやましいか。
 ということを、とあるSF関係者にメールで知らせたところ以下のような反応が返ってきた。

ちぇっ、ちょっと作家だと思いやがって!生意気な!
羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!
羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!
羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!
羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!
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羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!
羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!
羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!
羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!羨ましい!
あ〜あ!羨ましい!!!!!!!

ちくしょう!
今日の所はこんくらいにしといてやる!

 実にいい気分である。はっはっは。うらやましかろう。はっはっは。

詩のボクシング 10/19/99

 今日は尋常ならざる早起きをして西宮まで行く予定だったのだが、仕事がぜんぜんはかどらないので断念する。西宮でなにがあったかというと「詩のボクシング」である。喫茶店に集まって「詩のボクシング」をするのだそうだ。学生時代の友人に「今度詩のボクシングするねんけど、けーへん?」と誘われたのだがいったいそれがどういうものなのかはまったくわからない。今もわからない。気になる。

刃のついたコート 10/18/99

 昔なじみの女の子と電話で喋っていると共通の知人の噂話となり、去年ばったり会ったときその女性は「刃のついたコート」を着ていてとても派手なようすであったと言うのである。なんと恐ろしげなものを着ていたものだなあと思い、腕を強く振ると袖口から刃渡り三十センチくらいのコンバットナイフが飛びだしてきてすぐに人が刺せるような物騒なコートを想像しつつ「その刃はどこについとうのんな」と訊ねたら「襟のとこ」
 なにもしかしてそれは満員電車対策のコートではないのか。首の回りにびっしりと鋭い刃がいくつも突きだしていれば、まわりの人々は怖がって近づいてこない。どんなに混んでいても自分の空間が確保できるのである。そういうトゲトゲルックを昔考えたことがあるのである作ったわけではないみんなにとめられた。えらいもん着とってんなあ、としばらくびっくりして話を聞いていたのだがだんだんわけがわからなくなるので、詳しく聞いたらなんのことはない「ファーのついたコート」だった。一文字の単語は必ず母音を付加した二音節にして発音する関西方面ならではの聞き間違いであることだなあと学術的に納得して感心していると「アホちゃうか。あんたの耳が悪いだけやん」おまえの口も悪いぞ。

『アルジャーノンに花束を』 10/17/99

 やっと文庫になったというので買ってみた。ハヤカワの青背ではなく新たにできたダニエル・キイス文庫の第一巻だそうだ。普通の文庫より8mmほど背が高く、喜多哲士氏が「どついたるねん」ちゃうわ「ぼやいたるねん」で書かれていたように棚の問題ももちろん発生するとは思うが、ぼくが買ったときはカバーの問題が生じた。本屋のおばさんが文庫用のカバーをかけようとするとあとちょっと、というところで入らないのである。「あれ、入れへんな」と言いつつ別のカバーを出すがそれも文庫用なので入らない。新書用だと「これはちゃうなあ」でかすぎる。「それ、ちょっとだけ大きいみたいですよ」と教えてあげると「ほんまやなあちょっとだけ大きいなあちょっとだけやなかなんなあちょっと待ってな困ったなあ」と他のカバーを探そうとするので別にカバーはなくてもかまわないと言うと大変喜んで袋に入れてくれた。実に中途半端な大きさである。
 この本を買うのは三度目になる。最初に読んだのは高校一年のときで、これは先輩に借りて読んだ。その後改訂版が出たときに買い、これを誰だったか女の子にやってしまいほとんど文盲だったからたぶん読んでないと思うのでもったいないことをしたなあと思いつつ、最近また買って本好きの子供にやってしまった。この中学一年生はしばらく言葉も出なくなるほど泣いてくれたようなので、くれてやった甲斐があったというものだがおかげで手元になかったのである。
 今回また読み返してみたけどやっぱりいい。言語芸術における一つの奇跡だと思う。

まだ蚊が 10/16/99

 仕事をしていてもぶんぶんと耳のまわりを飛んだりしやがるので仕方なく蚊取り線香をもうもうと焚き、こちらは煙に噎せてげはげは言っているというのにまだ蚊は機嫌よく飛んでいるのだいったいどういうことだ。
 もしかしてあれは蚊ではないのではないか。新手の生物兵器なのではあるまいか。国際的なテロ組織が遺伝子工学とかあと遺伝子工学とかそれから遺伝子工学とかまあなにかそのいろいろ書きたいところだがちょっと思いつかないような科学的で強引な研究を重ねて作り上げた「必殺モスキートン7号改」などではないのか。なるほどそう考えると刺されたあとなかなか腫れがひかないのもうなずける。BCGだってあとが残る。
 モスキートンの針から体内に注入される化学物質には脳の機能の一部を麻痺させる作用があって、そのせいで仕事が進まないのである。ああそうだったのか。つまりこれはぼくに『猿はあけぼの』を完成されては困る人物の犯行なのである。ちくしょう誰だ。完成して喜ぶ人間も思いつかないが困る人間というのもよくわからないぞ。なぜ困る。なにを企んでいる。

蚊 10/15/99

 去年も今頃になって蚊が出たが今年も出た。なんで夏のさなかにはいないのに、十月も半ば、肌寒くなってから出てくるのだろう。しかもやっぱり刺され慣れてない種類の蚊らしく、痒みがなかなかひかないのである。眠るというよりも失神のような感じで朝方ベッドに倒れ込んだというのに、二時間もしないうちに手の甲の痒みで起きてしまう。あまりの痒みに身悶えしながらムヒを塗り、それでも眠いので倒れ込むようにベッドに入り眠ったかなあ、と思ったとたん耳元でぶーんと言う。発狂しそうになった。蚊取り線香を焚こうかとも考えたが、そんなことをして死んだかどうかわからないのでは気がすまない。必ずやこの手で叩きつぶし、いやできることなら半殺しの状態で捕獲し羽をむしり手足を引きちぎり目玉をひとつずつ抉り出して胴体を下から少しずつ切り刻み、内臓すべて引きずり出してから死の間際に貴様の妻も子供も同じようにして殺してやるからなと耳元で囁いたのち頭を潰して殺して便所に捨ててやりたいと呪いがんばって起きていたがああそうか血を吸う蚊は雌だから妻はおらんのかと気づいた頃には眠ってしまっていた。朝、というか昼前起きてみると両方の手の甲や手首のあちこちが赤く腫れている。痒くてたまらない。どうしてくれようと歯ぎしりしていると挑発するように目の前をひらひらと飛んでいく蚊がいやがった。これがまたどういうわけかめちゃくちゃすばしっこいのだ。すぐに逃げられてしまい、起きていきなり発狂しそうになる。必ずや生まれてきたことを後悔するような方法で殺してやるからな。くそっ。

まるで気の利かないやかましいおっさんたち 10/14/99

 忙しいと言っているのにこういう連中はかまわずやってきて人のビールを飲み尽くすのである。
 
よく気の付く妙齢の美人 10/13/99

 なぜかこういう人は絶対に来ません。

よく跳ねる宗教の勧誘 10/12/99

 今日はよく跳ねる宗教の勧誘の人がやってきた。ドアを開けるなりぼよーんと跳んで天井で跳ね返り、壁に当たったかと思うと反対側の壁で跳ねてそのへんのものすべて破壊しながらどっすんばっすんあらゆる壁に猛烈なスピードでぶつかっては跳ね返り、たまたま開いていた便所の窓から跳びだして空に消えた。

よく食べる保険の勧誘 10/11/99

 一昨日よく喋る薬屋、昨日無口なセールスマンに続いて今日はよく食べる保険の勧誘がやってきた。いわゆる生保レディというやつだが、四十そこそこと思しきその女性は扉を開けたときにはすでに、手に持ったフライドチキンをがつがつと食べており、口に鶏肉を頬張ったまま「こんにちはナントカ生命なんですけどもぐもぐもぐ」言い終わらぬうちに手に持っていたスーパーの袋からパックに入った寿司を取り出したかと思うと手掴みで口に放り込んで「今よろしいですかはぐはぐはぐはぐ」脂のべっとりついた手でパンフレットを取り出すと有無を言わせぬ態度でこっちに押しつけ「このたび新しい企画といたしましてげほっがっぐごご」げっぷをしながら寿司を平らげ唇に寿司飯を付着させたままやはりスーパーで買ってきたらしいコロッケを鷲掴みにするとぐしゃりと潰して口に押し込んだ。コロッケの中身や衣が鼻や口のまわりに貼り付き、やがてぼろぼろとこぼれ落ちるのにもかまわず「げふっ」と咳をして咀嚼途中のゾル状となったコロッケを吐き出し胸を濡らし「あっ」と叫んでその流動食をすくってふたたび口に運んでじゅるじゅっとすすり「こちらなんですけどたとえば癌などの三大疾病の場合ですとえぐっえぐっえぐっ」とどこに持っていたのか湯気をもうもうとたてる火傷しそうなできたての鍋焼きうどんを箸も使わず一気に喉に流し込み、このあたりでいくら素直で純真なあなたもああこの話は嘘なのかと思ったことでしょうが嘘です。

無口なセールスマン 10/10/99

 昨日よく喋る薬屋が来たと思ったら、今日は無口なセールスマンが来た。ベルが鳴るので出てみると地味なスーツ姿でアタッシェケースを持った陰気そうな中年男が立っていて、なんにも言わないのである。ただ黙ってこっちを見るだけ。特ににこにこしているということもなく、無表情に突っ立っている。「なんでしょうか」とこちらから訊くと、無言でアタッシェケースを開けて中からパンフレットを取り出す。「う」とか「あ」とかさえもまったくなくただ黙って突き出すだけである。穏和な顔つきで仕草に乱暴なようすもなく、身のこなしはすべて丁寧なのだが無表情で黙っている訪問者というのはかなり不気味であった。口が利けないのだろうか、それともなにかやばい品物でも売っているのだろうかとちょっとどきどきしながらパンフレットを見るとなんのことはない家のセールス。
 ここは実家ではなく、仕事場として借りているだけであるし、家を建てる予定も余裕もないと言うと、そのつどきちんと頷くのでこちらの言うことは聞こえているらしい。大きくひとつ頷くと、黙ってパンフレットをしまい、黙って頭を下げ、黙って出ていこうとしたのだがちょうどそのとき携帯電話が鳴った。黙って携帯電話を取り出すと、驚いたことにそのセールスマンは携帯電話の相手に向かって一言も言葉を発することなく、ただ向こうの言葉に頷いたり首を横に振ったりするだけなのだった。なぜそれで通じるのかまったくわからなかったが、電話の相手が瓶に閉じこめられた蠅みたいな声で「そうですかあ。ではまたのちほどおうかがいしますので」というようなことを言うのがたしかに聞こえたので、きちんと会話にはなっていたようである。
 電話をしまうと、どうも失礼しましたとでも言うように黙って丁寧にお辞儀をし、黙って出ていった。
 
よく喋る薬屋 10/9/99

 先日「まったく使わないしいちいち点検に来られるのもわずらわしいので持って帰ってくれ」と置き薬の点検にきた薬屋に一個持って帰ってもらい、よしよしこの調子で仕事場の置き薬すべて駆逐してくれようと気分をよくしていたら、今日もまた別のやつが点検に来た。
 同じように持って帰ってもらおうと思っていたのにこの人めちゃくちゃよく喋る人で、玄関を開けたとたん「ああどうもお手数をおかけしますいやいやもうけっこう涼しくなって過ごしやすいですねおや」と玄関に置いてあるBMXとマウンテンバイクを見て「自転車お好きなんですかそうですかいいですねえ健康わたしなんか車にばかり車にはお乗りですかそうですかそれでも自転車それはそれはやっぱり車があると自転車にはちょっとなんだか暑かったり寒かったり雨も降りますしねえそうですかそうですか今日はお休みですかお仕事ははあはあここでお仕事なんのお仕事を」面倒なので広告の仕事ですと嘘をつくと「広告というとコピーライターですかおおかっこいいですねえいやそういうのはやはり才能がいろいろと大変なんでしょうねえそうですかいやいや具体的にはどのようなことを結婚はされていないんですか?」ほっとけと思うようなことをどうのこうのとずーっと喋る。やがて薬の説明をさせていただきますと言って十六種類ある薬についてそれぞれ五分ずつくらい「まあこれなんかうちでは一番売れておりましてですね給料の半分はこの薬で稼いでいるようなもんでしてまさかみなさんおいしいから呑んでいるなんてことありませんでしょうからねやはりねこれは効くんでしょうね評判いいんですがとりあえずこれは一番使うということで五箱入れておきましてこっちの傷テープ絆はそのへんのちゃちなものとはちょっと違ってましてお値段も少々高いのですがたとえば止血などにも使えたりして大変に便利わたしもこのあいだ慣れないことをしておりまして包丁で指を」云々と喋りまくり。
 おかげでいらないから持って帰ってくれと言うチャンスは一瞬たりともなく、ただひたすら呆気にとられているしかなかったのだが、いやしかしあんなに喋る人間を見たのは初めてだ。天然のマシンガントークである。芸人でもあんなすごいのには会ったことがない。おもしろかったが大変疲れた。もう来ないで欲しい。

眠い 10/8/99

 眠いなあと思いながらキーボードを叩いていたら、いつのまにか眠っていたらしい。ふと見ると打て擬打て打て切り子宇七運気歌的多々るんうぬ羽缶テク十運拓具す巣雲海観大などと画面に書かれていてぎょっとして目が醒めた。なにこれ。

『時をかける少女』 10/7/99

 WOWOWで原田知世主演の映画をやっていた。観ていてどこがどういいのかよくわからないのに、なぜか何度観てもぐっとくる。「これはなんなの? これは愛? これが……愛するってことなの?」というクライマックスの演技はあまりにすごくて笑うに笑えんほどくさいのに、なんとなく感動するのである。不思議な映画だ。登場人物全員が棒読みというのも不思議。

2000年だから2000円札 10/6/99

 座布団全部没収。

恐ろしい夢 10/5/99

 飯野文彦さんと結婚して、やろうよやろうよと迫られた。

散髪 10/4/99

 そうそう忘れていたが十月一日に散髪した。前回の散髪が五月二十五日だったので約四ヶ月ぶり。前々回は去年の十一月で次に行くのはたぶん来年になるだろうから、なんと今年は二回しか散髪しなかったことになる。来年はせめて四回くらいは行きたいなあ。髪の毛は短い方がなにかと便利である。しかしあまり極端に短くするとぼくの場合鳥の雛そっくりになってしまうのである程度の長さが必要になる。別に鳥の雛そっくりでも生活に支障はないのだが家族がいやがるし、口を開けて笑ったりするととたんにどこからともなくやってきた親鳥が自分の子とまちがえて口の中にミミズやバッタを押し込むので気持ち悪いのだ。
 
出囃子 10/3/99

 とある女性と電話で話していて落語の話になり、出囃子はね、落語家それぞれみんな自分の出囃子があるのだよ、と教えてあげると非常に驚き「あたしにもあるの?」あんた噺家か。

新井素子氏と高井信氏の対談 10/2/99

 大阪シナリオ学校の公開講座ということで新井素子氏と高井信氏の対談があるというので天満まで行った。聴きに来ていた人は全部で百人ほどだったかと思うのだが、驚くほど作家含有率が高かった。二十人くらいは作家。上は夢枕獏氏から下は田中啓文まで。
 終わったあとで宴会になだれ込み、まんがカルテットに喜多哲士氏がまざってアホを炸裂させていると、とある人がぼくに質問だというのでなにかと思えば「「猿駅」にはモデルがあるんですか?」いやあの、とぼくがなにか言うよりさきに小林さんが「ぼくは行きました」牧野さんが「あれは大変やったね」啓文さんが「猿だらけでしたな」「よくもまあ情け容赦なく猿を踏めるもんですなあ」「さすがに引きましたな」「お母さんが入ってるのを殴って潰すのはさすがに見ていてどうも」「めちゃくちゃしますなあ思いました」アホや。

ジプシー・キングス 10/1/99

 ジプシー・キングスのベスト盤を録音したテープをもらったので、最近は車に乗るとそればかり聴いている。音楽としてもとてもいいのだが、それよりもとにかくこれは空耳の宝庫なのだ。めちゃくちゃ笑える。テープは二本あるが一本などのっけから「まあご謙遜」「医者も手がすいちゃたまんねえなあ」「なんてことだ反応」「兄が取って食えとサラダもらったぜ」「あんたがた、ほれ見いやあ、車ないかあ、こりゃまずいよー」と名作立て続けで、ひょっとしてこのアルバムはタモリ倶楽部監修の空耳特集なのではないかと思ったほどである。
 すでに空耳アワーで紹介されたものも多数含まれているが、その他の曲もすべてどうもなにやらわけのわからんことを言っているように聞こえてしかたがない。スペイン語というのは日本語と発音が似ているのだろうか。あらゆる歌詞が「ちょっと酔っぱらってめちゃくちゃな言いがかりをつけてくる訛のきついおっさんがずっと怒鳴っている」みたいに聞こえるのである。「あいつ強いなあ」「なんでそんな力あったんやあ」「おばちゃんとー、いっしょにー」「とってみろーほれー」「ああそんなうんち出よったんかあ」「毒素もらえるよーん」「へんなうしーへんなうしー」「尻にケンサキイカ、ケンサキイカがなあ」「耳出っ歯やあ」「べんちょけびろちょびべんちょけびろちょびびでびでびー」いや本当です全部言ってます。



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