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唸る幼児 6/30/01

 仕事場の近所の子供たちはちょっとおかしい。他の土地の子供たちをあまり知らないので日本全国みんなそんなんだと言われればそうなのかとも納得するが、しかしたぶんそうではないと思うのである。
 今日も暑い日差しの中、幼稚園児くらいの子供がふたり「ぐーうううううんんんん」と低く小さな声で唸りながら自転車でゆっくりとぐるぐる路上を回っている。何分もただ唸るだけでえんえんそれをやっている。そこへやはり自転車でやってきた同じ年頃の女の子が間延びした声で「なにやっとん?」
 すると唸っていた男の子のうちひとりがまじめな顔を女の子に向け「ユニクロ」
 思わずうまい、座布団一枚と叫んでしまったが、楽しいかそれ。
「アルプス一万尺仔山羊のうーえで」という子供の歌声も何度か聞いた。わざとのようにそこだけはっきり「こやぎ」と発音するので単にそう聞こえるだけではないのである。「アルペン踊りを踊りましょ」へいっ。踊るな踊るな。
 あと、なにやらヒーローもののナントカごっこをやってるらしい幼児たちの中で、ひとりの子供が胸を張って低い声を出し「なんとかかんとかがなんとかするのだ。それがおまえのさだめなのだっ。むははははは」などと恰好をつけたとき、別の幼児が突然「箱根八里の半次郎」の節で「さだめったら、さだめぇーえん」と歌いはじめたのも爆笑した。
 さらにこれはもう絶対に悪い大人の存在を疑わずにはおれないのであるが「一年生になったら」という歌である。「いっちねんせーになったーらー。おめかけひゃくにんでっきるっかなー」作るなつくるななんでそんなぎょうさん欲しい。「ひゃーくにーんでやりたいなあー」なにをじゃと思って聞き耳立てていると「ふぁっふぁふぁっふぁっもっももーふんふふんふふーん」よく聞こえんのであるはっきり歌えっと思わず窓を開けて身を乗り出すと歌はさらに続き「ぱっこんぱっこんぱっこんとー」こ、こらこら。
 言っておくが、ぼくは近所の子供とはいっさい関わりはない。ぼくは教えてないいいや知らん。

アンケートには期待できない 6/29/01

 昨日書き上げた品のない短編だが、それでいいと言われて一安心。シリーズとして一冊にまとめては、というような話も出ていたので編集者に、じゃあそのうちまた(同じ雑誌に)書かせてもらえるんですねと言うと「いやあ前回もでしたが、特に今回のはアンケートの回答もまったく期待できませんしー」などと語尾が濁る。まったく期待できないのだそうだ。まったく期待できないのに載せてくれるのである。よくわからん。しかしどういう話なら「アンケートに期待できる」のだろう気になる。

一日三十五枚 6/28/01

 締め切りが明日と迫ったので、あと二十枚くらい一晩で書けるわいと夜通しがんばったら結局三十五枚も書いてしまった。合計五十六枚。いつも思うが、毎日こうなら大金持ち。
 しかしあまりにめちゃくちゃな気がして、読み返すのが恐く、まったく見ないでそのまま編集者に送る。早く忘れようとウィスキーを飲んだりする。
 これまでのぼくの作品の中でもっとも下品な話になってしまった。そんなつもりはなかったのだがなあ。
 
気の早い蝉 6/26/01

 暑かったせいだろう近所の公園でもう早鳴いている蝉がいた。当然一匹だけである。どこの世界にもアホはいるものだ。
 
亀を助ける 6/20/01

 池から少し離れたところをよたよたさまよい歩いている亀がいて、散歩中アホ犬よだれがそれを発見した。そのときのよだれの驚きようというのは尋常ではなく、草むらでがさっと音がしたとたん数メートルも跳びすさって歯を剥き出し、怒っているのかと思うと尻尾は後ろ足の間にぴたっと入り込んで体は丸まって猫背となる。いったいなにがいたのかと見てみると四六判ハードカバーほどの大きさの亀であり、なんや亀やないかと拾い上げ、少し歩いて池に投げてやった。その間中よだれは、得体のしれない生き物を手にした飼い主がいつそれを刺客として差し向けてくるかわからないぞと怯え、地面に這いつくばって逃げよう逃げようとする。亀なんかのなにが恐いんのだと思って顔の前にぬっと突き出してやると、パニックに陥いったアホ犬は白眼ひん剥いて四つ足を猛烈なスピードで動かしフナムシのように地面をかりかりと掻きながら泡を吹くのだった。
 しかし子供の頃からこのようにして道に迷った亀を助けてやったことは一度や二度ではないというのに、なんの恩返しもしてもらったことがない。亀は見かけによらず恩知らずである。
 
マスクマジシャン 6/16/01

 大仕掛けマジックのネタばらしをするためマスクをかぶって顔を隠しその実態はすべて秘密。世界中のマジシャンから恨みを買っていて命さえ狙われているというマスクマジシャンが初来日したっ! というテレビ番組をやっていた。前にも見たことがあるような気がするが、あれは外国の番組だったのかなあ。しかしなにが笑ったといって「命の危険があるため極秘に来日した」とナレーションが緊迫感を盛り上げている中、奇抜な模様の入ったマスクを頭から被ったマスクマジシャンが護衛十人くらいと空港を歩いていたのには爆笑した。なにが極秘、目立ちすぎ。
 
『カリオストロの城』 6/15/01

 テレビで『ルパン三世 カリオストロの城』をやっているなあと思いながら全部観てしまう。宮崎アニメの中では、ぼくはこれが一番好きかもしれない。この映画を最初ぼくはちゃんと映画館で観た。明石の小さな映画館で、高倉健主演『遙かなる山の呼び声』という『シェーン』にオマージュを捧げたような映画をやっていたので観にいったところ、他に桃井かおりと渡瀬恒彦の出ていた『神様のくれた赤ん坊』というなんということもない映画と、それから『カリオストロ』が同時上映だったのである。へんな三本立てだが、この映画館は配給がいっしょというだけの理由で寅さんとスーパーマンを同時上映したりもしていたので、こんなのは序の口である。
 付録にマンガ映画がついてくる、くらいの気持ちで観たのにこれがまあ信じられないくらいおもしろかったのでひっくり返って座り小便して馬鹿になるところだった。いっしょに観ていた友人といったい今のはなんだったのだとネッシーを見つけたみたいに興奮し次の日から誰彼なしにつかまえてはあれはすごいおまえも見ろと脅迫したように思う。ちょうどテレビで『未来少年コナン』をやっていた時期だったので、あれと同じ人が作ったのだとあとで美術部か文芸部のオタクに聞いて大変納得したのを覚えている。
 どう考えても「あなたの心です」という銭形の台詞はくさくてどうしようもないと思うのだが、ぐっときてしまうのが不思議。ルパンがクラリスを連れていってしまって、そのままいっしょに泥棒するという話も観てみたいとずっと思っているのだが、やらんでしょうな。
 
『淑女の休日』 6/13/01

 柴田よしき『淑女の休日』(実業之日本社)読了。最近、人からいただいた本をすぐさまむさぼり読んでしまうことが多いので困る。ぼくは謎解きが最後にくるタイプの小説がちょっとだめなのだが、この本はきっとそうだろうし、なんとなくぼくの一番なじめない話なのではないかと恐る恐る読み始めたところ、そのまま飯も食わずにいっきに読んでしまった。恐れることはなにもなかった。
 人物造型がいいからすらすら読めるのかなあなどと多少悔しい思いを抱きつついろいろ考えてしまったが、結局はおもしろければなんでもいいのである。それはいいとしてこの小説、舞台がシティホテルであって、あとがきによると柴田さんはこの作品を書くに際して「……いろいろなホテルを泊まり歩」いたそうなのである。なるほどうまいこと考えた。よっしゃほんならぼくはニュージーランドのスキーリゾートでスノーボーダーが大活躍する話を書こう。全部経費じゃ。
 しかし多少は儲からんと経費にする金がないのじゃ。どんなもんじゃ。
  
『ワイルド・ワイルド・ウエスト』"Wild wild west" 6/11/01

 どう考えても絶対めちゃくちゃおもしろいはずだと思ったのに、観てみるとそんなにおもしろくなかった。不思議である。せっかくウィノナ・ライダーが出ているのに全然存在感ないし。音楽がエルマー・バーンスタインだったのと、オープニング直後『駅馬車』と同じアクションがあったので、そのへんまでは大喜びだったのだがなあ。おかしいなあ。

『異形コレクション「夢魔」』 6/8/01

 久しぶりに異形コレクション。光文社で出るようになってからは、もしかしたらもらえるのかなあどうなのかなあと思って買わずに待っていたら結局誰もくれなくて読んでいなかったのである。今回はぼくも書いているので何冊かもらえた。
 だからどうだというわけではないのだが、一応宣伝しておこうと思って。
 
チカゲ 6/5/01
 
 若い女の子の間で「チカゲ」なる言葉が使われているのだそうだ。「着飾っている太った老女」みたいな意味であるらしい。もちろん大臣のあの人の名前が語源となっているわけでまったく若い娘は情け容赦がないのである。まあそれは別にいいのだがそんなことよりもあの大臣『スター・ウォーズ』のエピソード6に出ていたことが話題にのぼらないのが不思議でならない。
 ハン・ソロのチームによって惑星エンドアのシールドが解除されるのを待っている反乱軍の艦隊にチカゲさんはいる。ミレニアム・ファルコンを操縦するランド・カルリジアンの左側にずっといて、デススターが吹っ飛ぶと喜んでフォッフォッフォッと笑う宇宙人の役である。
 
フレンチ・オープン・テニス 6/3/01

 WOWOWでサッカーをやられると、しょうもないもん放送しやがってその分映画が減るではないかとめちゃくちゃ損をしている気がしていらいらするのに、テニスだとなんとなく見てしまうのが不思議である。男子シングルス、クエルテン対ラッセルの試合を途中から最後まで見てしまった。試合内容もおもしろかったのだが、どちらも打つときに「むおっ」とか「んはー」とか言うのでけっこう笑えるのである。すぱっ、とサーブの音がしてからしばらくは、むあっ、うはー、うっ、むはー、でっ、ぬはー、うっ、えはー。ふざけているとしか思えず音だけでもなかなか楽しめるのだった。セレシュがやたら声をあげるのでいかん、みたいなことを言われていた時期があったようだが、今じゃたいていの選手がうっとかむっとか言っているのである。しかし、んはーとかむはーというような悲しげで弱々しい声を出して果たして力が出るものなのだろうか。と思っていたら、クエルテンはうはーんと言いつつ大逆転で勝った。わからんものだ。ぬはー。
 
『ΑΩ』 6/2/01

 小林泰三『ΑΩ』(角川書店)読了。
 ヘアッ。


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