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寒中サイクリング 12/28/02

 誰が言い出したか寒中サイクリングに行こうということになって、なにを隠そうぼくが言い出したのだが行くことになった。場所もなんにも考えてなかったのだが、いつも山歩きではお世話になる先輩Y氏が全部計画してくれたうえ車も運転してくれるというので、ぼくはただ自転車をY氏の車に載せさえすればあとは自動的にスタート地点に到達できたのだった。実に快適である。
 今回のコースは兵庫県生野銀山のあたりを周回する全長約五十キロ。峠を四つ越える上り下りばっかりのコースで、途中二箇所未舗装の林道を通る。こういうツーリングを「パスハンティング」それをする人のことを「パスハンター」というらしい。戦えパスハンター人類の未来まだやるか! ゴール後、近くに温泉があるのでそこでゆっくりしてから帰る予定である。のんびりゆったりした気楽なツーリングになるとぼくもY氏も思っていた。
 スタート地点は「道の駅」というなんなのかよくわからない場所で、勝手に車を駐車しておいてもかまわないのだそうだ。スタート時刻はのんびり食事をとったりしていたせいで予定を一時間ほど過ぎ午後一時になってしまったが、まあ三時間もあれば帰ってこられるだろうとだらだら出発する。道路脇は杉の密生する山で、枝葉に積もった雪がときおりひらひらと快晴の日の光の中を舞い落ちたいそう美しい。他に思いつかんのかと思うところだが大衆演劇の見せ場みたいである。しかし美しいなあと思うのは遠くから見ているからで、中に入るとそんなのんきなことは言っていられないと思い知らされた。最初に入る予定の林道入り口を見ればこれがものすごい積雪である。どうしたものかと一分ほど迷い、しかしまあせっかくやからと後先考えずに入り込んだのだがホイールの三分の一ほどが雪に埋もれてうまく登れない。風が吹くと樹に積もった雪が横からわーっと降りかかってくる。ときどき上の方からボーリングの球ほどの雪がどせーっとばかり頭を直撃する。ぼくもY氏も先日タイヤをスリックに換えたばかりでつるんつるんであり油断するとタイヤが滑って自転車が斜めになる。足を着くと靴がびしょびしょになってしまいふたたび自転車に乗ろうとするとやはりタイヤが滑るのでなかなか乗れない。次々と雪の塊は落ちてくる。爆風とともに横から雪が吹きつけてくる。風雪バンド・オブ・ブラザースである。気のせいか迫撃砲の砲弾が空気を切り裂くひゅーという音も迫ってくる。わあわあいいながらなんとか登り切り、やれやれと思っていたら当然のことながら下りもとんでもない雪の中を進まねばならず、タイヤびしょびしょのうえ低温でゴムが固くなったのかすぐにブレーキが利かなくなってしまった。しかしこれがスノーボードならめちゃくちゃ幸せなのになあと惚れ惚れするような美しい新雪の中をざくざくタイヤで踏み荒らしていくのは、清楚な美少女に倒錯した性的行為を強要しているようでなかなかどきどきする。と思ったのでその旨Y氏に伝えたら蟯虫の標本でも見たような顔をされた。
 ああおもしろかったと林道を出るとそこからは延々舗装路の下りである。信号もなく車も通らない。景色もいい。おお素晴らしいと機嫌良く下っていくと体も冷えたがそれよりタイヤやブレーキまわりにこびりついた雪が凍って、ブレーキレバーを引くとがりがりへんな音をたてるようになった。ブレーキが氷に包まれ全然利かないのである。つるんつるん。時速四十キロを超えるスピードが出ていたので一瞬ぞっとしたがブレーキを軽くかけた状態にして解かしながら下り事なきを得る。それでも思えば悩みのない脳天気なライディングはこのときだけであった。その後入った峠はことごとく雪が積もって凍っており、登りはタイヤが滑らないよう気をつけながらこちこち登らなければならず、下りはまるで利かなくなるブレーキをだましだましずるずると下るばかりでスピードが出せない。おもしろいものでだんだんとタイヤが横滑りする路面での走行にも慣れてくるのだが、こういうのはちょっと慣れてきたときが一番危ないからなあと思った瞬間凍った轍の上でバランスを崩し百八十度回転したりした。横にじゃあたりまえやろ縦に百八十度回転して止まれるか。まあなんとかひどいこけかたはせずにすんだもののブレーキが利かないのは致命的で、力一杯握りしめつづけた結果三つ目の峠あたりでワイヤが伸びきりレバーの引きしろもほとんどなくなってしまう。ぼくの自転車のカンチブレーキはスパナがないとほとんど調整ができないのである。路面の凍った下りではスピードのコントロールが利かなくなることも多く、たびたび自転車を放り出して飛び降りなければならなかったりした。スリル満点である。アクション満点とかロマン満点とかは言わないのになぜスリルだけスリル満点と言うのだろうというような学術的疑問を抱きつつずるずる走り続けるが驚いたことに走行距離五十キロを超えてもゴールはまだまだで、日はとっぷりと暮れあたりは真の闇となる。田舎の山に明かりはまったくないのである。地図をちゃんと見ておかないとこういうことになる。我々の場合はちゃんと見ていてもこういうことになるのである。自転車のライトだけを頼りに黙々と暗闇の中登って下る。登りはともかく景色がまったく見えない中ハイスピードで下るのはこれまで経験したことのない不思議な感覚だった。前を走るY氏の自転車のテールライトが赤く点滅し、そこから目をそらせなくなってくる。移動しているのか静止しているのかわからなくなり体の重みも風も音もなんにも感じないのだ。なんとなくトリップしそうな危ない感じで意識がへらーっとしてくるところ、ときどき前から自動車が来てはそのライトによって正気に返るというのを何度かくりかえす。あとで思うと危険な状況だったのかもしれないけど、そのときは独特の浮遊感覚があってなかなかの快感であった。下手するとあれは癖になる。
 やがて町に下り、さすがに明かりが見えはじめたもののゴールまであと十キロというころになると寒さで指の感覚がなくなり尻も痛くなって、こんなことならちゃんとした冬用グローブも買っておくのだったサドルも千九百円などという安物にせず二万円の「医学的見地から徹底研究された痛みやしびれの原因を取り除くボディージオメトリーサドル」とかゲル入りでショックを吸収してくれる「ゲルショッカー」とか買っておけばよかったとつくづく後悔した。あと雪の中でもブレーキが利くよう次に買う自転車はやはりディスクブレーキを搭載していなければならぬと強く思う。今後雪の積もった道を走るような状況はそう頻繁にはないという気もするが、やはりブレーキはディスクでなくてはなるまい。いいややっぱりディスクブレーキである。かっこいいしな。
 七時過ぎゴールしてスピードメーターを見ると走行距離は七十キロを越えている。実質走行時間は約四時間半。瞬間最高速度は時速四十五キロであった。ああやれやれと自転車を車に積み込み温泉に行くと年末ということで営業しておらず、予想外の事態に衝撃を受けたおっさんふたり冷え切って薄汚いまま帰路につく。哀れ自転車どろどろのぼろぼろ。わたくしたちはいったいなにをやっておるのでしょうなあと首を傾げつつあんまりおもしろかったので雪がなくなる頃また行くことにする。

女性ひとりいるだけで 12/23/02

 明石の居酒屋にいつものメンバーが集まって忘年会、と思っていたらひとりがたまたま来る途中会ったという知り合いの女性を連れてきていて、いきなり数名のテンションが上がる。そこへ重ねて最近日本酒に凝ってどこのなんとかいう酒がうまくてなかなか手に入らなくてといっつもおんなじことばっかり言うひとりがなにを思ったかすでに冷酒を何本か飲んでいるというのに、面倒なのでこれ一升瓶で頼もうここのこれはなんとかかんとかのなんとかかんとかで近所で買うとどうのこうのであれがなにやけどとにかく一升頼もうとやめろと言う間もなくアホが本当に頼んでしまった。ビールでいいのにと思いつつぼくは日本酒とビールを交互に飲んでいたのだが、いつもはそれほど酔わない連中三人が日本酒をビール以上のペースでごぶごぶ飲んでべろべろになってしまい、店を出るなり天空を指さして爆笑したり、交通量の多い車道の真ん中にふらーっと歩いていってそのまま寝ようとしたり、通りかかった見知らぬ初老の夫婦の袖を引いてお父さんお母さんいっしょにカラオケ行きましょうと誘ったりめちゃくちゃである。
 次の店へ行く少しの間になんの弾みか巨大なクリスマスケーキを買ってしまったやつもいて、そんなもんどないするんやと呆れていたのだが、結局いつも行くプーさんの店でワイン飲みながらみんなしてがつがつ食べていた。あとで知ったが、その後ひとりは路上にゲロをぶちまけ、ひとりは財布をなくし、ひとりは西明石から明石まで一駅乗ればよいだけの電車を乗り過ごして高槻まで行ったそうだ。妙齢の女性がひとりいると、おっさんはあんなに変わってしまうものかとたいそう驚かされた忘年会であった。アホや。

自転車のライト 12/22/02

 いろいろ手を入れて相当かっこよくなったと思われる自転車を先日遊びに来た女の子に自慢したら、ライトの色が自転車に合ってなくて変だと言うのだった。単三電池四本で百十時間も点灯し、しかも最初の三十時間は車もびっくりするほどの光量でさらにLEDなので球切れの心配もないと自転車乗りの間では今一番評判のライトであるが、人気のせいか黒いのがなく仕方なくメタリックブルーのものを買ったのである。たしかに赤い車体にはちょっと合わないかなと思っていたもののあんなにぼろくそ言われるとは思わなかったのでショックを受け、今日ホームセンターに行ったついでに黒のラッカーを買ってきた。さっそく塗ってみたがやはり黒い方が車体に似合い予想以上の出来である。よしよしそれではと、こないだ買ったスピードメーターにおまけで入っていた小さなステッカーを貼ってみるとこれがまた実に見事にかっこよくなり誰かに見せたくて仕方がない。すると世の中うまくしたもので、ライトがいかんと文句を言った当の本人がふらっと遊びに来た。玄関でいきなり、どうやこれ見事なもんやろと自慢したら、ちらっとライトと自転車を見、玄関に散乱する新聞紙やラッカースプレーなどを見、誉めてくれるのかと思ったらそんなアホなことしとらんと仕事したらどうなんと言うのだった。誰か誉めてくれ。

またラジオに出る 12/15/02

 風邪が全然よくならないがまたしてもアベノ橋のラジオに呼んでもらったので大阪まで出かける。前回、終わってからなんにも食べられなかったと恨み言を連ねたせいか、今日は収録前にみんなで食事をしましょうということになりヒルトンホテルで寿司をご馳走になった。ビールもがぶがぶ飲み、サエキはもう仕事なんかする気にならないので「今からみんなでスパワールドに行こう」と正真正銘「本気で」言っていた。あっぱれなやつ。よく知らないけどスパワールドというのは温泉が寄り集まったレジャーランドみたいなものらしく松岡さんもスパワールドはめちゃくちゃええと言ってたのでなんだかわからないがとてもよいところであるらしい。
 ラジオ大阪に着くとなにか特別な日だったようで声優さんがどっと集まっている。サテライトスタジオ前にはオタクがどっと集まっている。それを眺めて、あるみちゃんのモデルである美しいモリリンさんがさらっとものすごく痛烈なことを言ったので、そんなあほなと笑っていたのだが武田さんも他の人々もいやそれは本当だ(訳あって削除)は(訳あって削除)だと真顔で熱弁をふるうのだった。(訳あって削除)のことをまるで(訳あって削除)扱いである。ぼく(訳あって削除)でなくてよかった。
 鼻づまりのエグイ声で録音をすませ(番組は生だったがぼくの喋るパートは録音だった)番組が終わってからみんなして弁天町のホテルのスカイラウンジで少し飲むことになった。大阪も夜景だけは美しい。暗くなると汚いところが見えなくなるからである。店の雰囲気がビールではなくバーボンだと主張していたので久しぶりにI.W.ハーパーを頼んでみたが、何年ものにしますかとかこれでよろしいでしょうか水割りにいたしますかロックですかではシングルですかダブルですかとか何回も何回もいろんなことを訊かれ市役所みたいでめんどくさかったので二杯目からは結局ビールにした。意味も理由もなく突如武田さんが「股間人形マタドール!」などと叫んだりしていたが、誰も反応しない静かな宴であった。

ひさしぶりに東京 12/13/02

 風邪をひいているのに嬉しがって夜毎自転車乗り回した結果どんどん悪化してものすごいことになってしまったが、ただ宴会のためだけに東京へ行く。熱があったようで目の奥がどんよりしていたのと「ほとんど知らない人ばかり」であるうえ「自分で取ってこないと料理が食えぬ」という理不尽なシステムのためなんにも食べずにビールばっかり飲んでいたせいか途中からあんまり覚えていない。二次会がカラオケだというので逃避し、ひとりで帰るのは淋しいしなあとホテルの部屋に無理矢理古橋秀之氏と秋山瑞人氏を引っ張り込んだのはなんとなく覚えているがその後どうなったのかよくわからないのである。ずっと笑っていたような気がする。

風邪ひいた 12/9/02

 薄着のまま朝方自転車で走り回ったせいか風邪をひいてしまった。あほや思うか。ぼくも思う。

自転車大改造 12/8/02

 ぼくのマウンテンバイクにはダウンヒル用のとんでもないごつごつのブロックタイヤがついていて、見た目がかっこいいというだけの理由でなんにも考えずこれまで楽しく乗っていたのだが、スリックタイヤの自転車といっしょに舗装路を走っていると下り坂でどんどん置いていかれてしまうことに最近気がついたのである。もっと早く気づくべきであった。そこでとりあえずセミスリックタイヤに交換しようとタイヤを買いにいったのだが、どういうわけかペダルとかハンドルステムとかクイックレリースとかシートピンとかスピードメーターとか買ってしまう。なんでか全然わからないが気がつくと体が勝手に買っていた。病気かもしれない。
 ペダルは赤いフラットペダル。タイヤもサイドウォールが赤く、ハンドルステムも勢いで赤いのにしたため自転車は真っ赤っかである。ハンドルステムは取り付けにちょっと工作する必要があったためアルミを切ったり削ったりしなければならず作業がすべて終わると朝の五時くらいになってしまっていた。けどせっかくなのでちょっとだけ乗ってみようと寒い中走りはじめたところあまりに快適な乗り心地に感動し明るくなるまで走り回る。別の自転車みたいである。買ったときからハンドルステムはちょっとハンドル位置が高すぎるし、なによりかっこわるいなと思っていたのでA-HEADになって嬉しくてしかたがない。ロードレーサーのようにとはいかないまでも、ブロックタイヤと比べるとセミスリックはめちゃくちゃスムーズで、紙ヤスリの上から氷上に出たかのような走行感である。こんなにわくわくすることは日常そうあるものではない。
 スノーボードで新雪を滑走するあの生身で空を飛ぶような快感を知らずに死ぬのは不幸であると今でも思うが、あれはスキー場まで行かないと遊べないしパウダースノーなどいつでもあるわけではないし、しかも他に人のいない広大なゲレンデでないとあの快感はなかなか味わえない。リフトやゴンドラ乗るのにたとえ一分でも並んで待つなど問題外である。となると一番手軽なところでも閑散期の北海道まで滑りに行かねばならず、手間も時間もお金もめちゃくちゃ必要となるうえ長くてもたかだか一週間ほどしか滑ることはできない。そのあたりを考慮すると自転車一台が三十万円したとしてもそんなものちっとも高くはないのであるうるさいなにが強引。誰がなんと言おうと他の遊びから考えると自転車一台三十万円なんて実に安いものである。たとえ五十万七十万したとしてもごくごく普通の趣味の範疇でありましょう。それなのにあまり贅沢はいかんなと二十万円くらいの予算でいろいろ工夫しながら新車購入を検討しているつつましいぼくに、仕事も全然しないくせにそんなアホみたいに高い自転車なんかとかごちゃごちゃ言うのは大まちがいなのである。みんなわかりましたか。

太古の記憶 12/1/02

 とある女性が暇つぶしに電話をかけてきてどうでもいいことを話しているうち、あんた覚えてないの五億年前にな、ととてつもないことを言い出すのだった。そんな昔の記憶が人類の脳に残っているものなのかと悠久の時の流れに思いを馳せつつ、どう答えていいのかわからない。黙っていると、たしか地震のあとたぶん一、二年経った頃などと言い出したので「五、六年前」かと気がついた。今、五億年前のことかと思てびっくりした、と言ったら今度は向こうが黙り込み、しばらくしてあなたは本当にだめだ人としてだめだと延々関係のない日頃の暮らしのことや若い頃やらかした失敗までいろいろほじくりだして説教されてしまった。ほっとけ。しかしなかなか魅力的なフレーズではないか。五億年前のこと覚えてる?


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