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黒川温泉 4/27/03

 兵庫県朝来郡というところの黒川温泉を起点に、黒川ダムと多々良木ダムを巡るコースを自転車で走る。やたらと長く急な坂があって下りは最高時速五十二キロをマークして喜んでいたのだが、復路はその急坂アホ登りをえんえん登って戻らねばならずなかなかしんどいコースであった。ダム湖の周りというのは、最初は景色もカーブもけっこうおもしいろいもののずーっとおんなじ景色とカーブがくりかえし出てくるので、飽きるというかなんだか変な気分になってくるのである。走っても走ってもおんなじ景色とおんなじカーブが現れるという状況は、異次元に迷い込んだような気色悪さがある。登りのときはなおさらで、実に不気味な非日常的体験だった。あまりに疲れて坂の途中で休んでいると、すぐそばにロッド・サーリングがいきなり立っていて「このふたりのサイクリストが迷い込んだ出口のない世界は」などとカメラ目線で語り始めたのだがばててしまっている我々には相手をする余裕がない。SFファン必走のコースと言えよう。
 ゴールしてから黒川温泉というのに入ったがこれがなかなか趣のあるいい温泉で、車に乗ってこのためだけに来たとしても充分満足できたなあと思うほどいい雰囲気であった。ハードな運動をしたあとすぐに熱い湯に浸かるのは本当はよくないらしいけど。ぬるめの露天風呂もあって、あんまり気持ちいいので体がふやけるまで浸かっていた。
 長くてきつい坂を延々自転車で登り続けると大変疲れる、ということを学んだ一日であった。

三階の友人死にかける 4/25/03

 仕事場の三階に住む友人のところに行ったら、機嫌よくビール飲みながらさらっと、実はこないだ死にかけて一週間入院していたのだそれはもう実に大変であったのだなどと言う。なんでも胃から出血して何度か大量に血を吐き、早朝救急車で病院に運ばれたところもう少しで死ぬところだったあと一回血を吐けば確実に死んでおった非常に危なかった危機一髪であったと医者に言われたのだそうだ。同じアパートにいながら救急車が来たことなどぼくは全然知らなかった。
 三日ほど前に退院したと言いつつがぶがぶビールを飲む友人は、来週からしばらくアメリカに行くけどなんか買ってきてほしいものあるかと平然としているのだった。たぶん長生きはできんだろうがえらいやっちゃ。

麻薬犬 4/19/03

 これ誰にも言うたらあかんで。
 言わへんいわへん。
 山口君のお父さん警察官やろ。
 ふんふん。
 でな、山口君とこ、麻薬犬飼うてるんやて。
 へえー。
 ほんでな。
 うん。
 山口君その犬な。
 うん。
 ときどきこっそり吸うてるんやて。

アトム 4/8/03

 昨日は鉄腕アトムの誕生日だとかで朝から晩まで日本のメディアはアトム一色であった。これだけあっちこっちでアトムアトムと言われつづけると、どこかに必ず「アトムアトム言いやがって、わしは絶対アトマないからな!」という人が出現すると期待していたのだが残念ながらそういう人はいなかったようだ。みんなそろってアトンだようで日本は平和やなあ。
 
とうとう 4/7/03

 注文していた自転車ができあがったと連絡があったので、姫路まで電車で行く。そのまま乗って帰るつもりなのである。すでにぼくが全幅の信頼を置いている自転車屋であるが、これまではいつも車に乗せてもらって行っていたため、歩いていくと店がどこだったかわからなくなってしまう。世界遺産姫路城近くの千姫の道とかいうしばし呆然とするほど桜の綺麗な道を機嫌よく歩くが完全に迷い電話で場所を訊いたら、驚いたことにわざわざ車で迎えにきてくれた。
 いやしかし自転車一台選ぶだけに、なんと長い道のりであったことか。集めたカタログは約二十冊。検討したメーカーは思いつくまま並べても、キャノンデール、トレック、クライン、ゲイリーフィッシャー、ロッキーマウンテン、ジャイアント、ジェイミス、GT、ハロー、コナ、シュウィン、スペシャライズド、スコット、ルイガノ、インターマックス、マングース、ノルコ、KHS、サンタクルズ、インテンス、コメンサル、などなどまだまだある。結局決めたのがなんであるのかは、特に理由はないけど内緒である。
 店に着くなり、ぼくの新しい自転車が目に入りそのあまりのかっこよさに失禁しそうになった。しかし最近ちゃんと仕事をしたという記憶がないため後ろめたい気持ちは勢いで注文してしまったときからずっとつきまとっており、いや別に盗んだ金というわけではなくちゃんとアニメ関係とかいろいろ仕事したわけで法には触れていないのだけれど、著書が出てないのでなんか全然仕事してないような気がするのである。しかも買ったのは一般の日常感覚だと文字通り「アホみたいな」値段の自転車である。ここに書くのもためらわれるほどアホみたいな値段である。どうも悪いことをしているような気がしてならない。
 あれこれとぼくの体に合わせて微調整してもらったり、職人気質全開の毅然とした態度で絶対にこのようにせねばならぬという「正しい乗り降りの方法」まで説明してもらったりしているうちに五時くらいになってしまった。予定では三時に店を出て明るいうちに明石まで帰る予定だったのに。なんせぼくはマウンテンバイクに関しては十五年前のものをずっと乗りつづけていたためVブレーキもラピッドファイアもサスペンションフォークもみんな初体験である。今度の自転車にはリアサスまで付いていて、もうこうなると別の乗り物みたいなものだ。
 結局五時過ぎ店を出たが、走れば走るほど別の乗り物という印象は強くなるばかり。めちゃくちゃおもしろい。世の中にこんなにおもしろいことがまだあったのか、この快感はスノーボーディングにおけるパウダースノーの浮遊感に匹敵するのではないかいやそれ以上かもしれんとわくわくどきどきしながら走っていると、やはり人間よいことばかりが続くものではなかった。四十分ほど走ったところで突然シャーシャーというようなものすごい音がする。紙かなにかブレーキに挟まったのだと思ったが、そうではなくて後輪のタイヤにとんでもない大きな傷があってそこからものすごい勢いで空気が漏れているのであった。いままで何度もパンクは体験しているがこんなにでかい穴が空いたのは初めてである。やっぱり神さんはおるなあ仕事もせんと遊んでばっかりやのに分不相応な自転車買うから罰当たったんやなあこんなことになりそうな気がしとったんやと心底思ったがあっというまにタイヤはぺちゃんこ。軽量タイヤであるせいか空気がなくなると指で裂けそうなほど薄くてぺちゃんこになる。そのまま転がすことさえできそうにない。
 予備のチューブも空気入れも持っていない。途方にくれ、仕方ないので担いで自転車屋まで戻ろうと思ったが歩くと二時間以上はかかると思われたためとりあえず電話をかけ、閉店ぎりぎりになってしまうと思うけど待っていてくれないかと言おうとしたら、今から行くので待っておれとのこと。いやあなんて親切な自転車屋さんなのだろうか。二十分もせずに来てくれて、その場でチューブと、タイヤまで新しいのに交換してくれた。パンクに襲われるというのはたしかに不運であるが、これ以上恵まれた状況下でのパンクは他にあるまい。絵に描いたような不幸中の幸いであった。
 鞍馬天狗のような自転車屋さんのおかげで、あとはなんとか無事に家まで帰れたのだが、しかしそれでも初めから終わりまでずーっと狙ったように強い向かい風でしかも何度か道を見失ってわけのわからないとところに入り込んでしまうし直線距離ならたかだか四十キロちょっとなのに帰り着いた頃にはへとへとで、やっぱりなにかに怒られているような気はした。これからはちゃんと仕事しよう真面目に暮らそう心正しく生きようと決意しつつ風呂に入りビールを飲んで、まあ一回パンクしたから厄落としも済んでもう大丈夫やなとすっかり安心して決意したことまるごと全部忘れるのだった。

花見 4/6/03

 先輩Y氏の自転車がだいたいできあがったそうで、今から見せに行く、とにかく見せたい、頼むので見てほしいと連絡があり、ではこんなに天気もいいのでどこか桜の綺麗なところまで軽く走りましょうかということになった。
 何年か前ぼくがぶらぶら自転車で走り回っているとき発見したその名も「桜の森」というところはどうでしょう笑うほど桜が山盛り咲いてますよよっしゃそこにしようほな行きましょと昼過ぎ出発しだらだら走る。Y氏の新しい自転車はランドナーをメインに扱うアルプスというフレームビルダーの作ったフレームが基本になっていて、素材はクロモリである。クロモリと聞くと黒森という日本人の姓だと思う人がときどきいるみたいだが、まあぼくも中学生のときはそう思っていたのだが、これはクロムモリブデン鋼という鉄の合金で、昔はスポーツバイクのフレーム素材としてごく一般的に使われていたものである。今はマウンテンバイクもロードバイクもアルミが主流で、高級素材にはカーボンとかチタンなどがあったりして安くて細いクロモリはなんとなくマニアックな人のための素材みたいな雰囲気になっている。おかげで十五年も前のぼくのマウンテンバイクはただ古くさいのではなく「なんだか渋い」もののように思われたりしてちょっと得。それはともかくアルプスのフレームは繊細でクラシックな趣を漂わせ実にじつに渋い。自転車としての基本的な美しさがあるのである。こういう自転車で桜を見にいくというのはなかなかかっこいいのではないかおしゃれなのではないか「春の休日ランドナーで巡る古都の桜と室町情緒の旅」と古都も室町もなんの関係もないけど、にわかに自己陶酔型趣味の嫌味なおっさんと化した我々ふたりが優雅に到着した「桜の森」は人と車で大混雑。人と人との隙間もなく桜の森の前の道は狭い道なのに違法駐車の列のため車は身動きがとれずクラクションが鳴り響きあたり一面焼肉となぜかカレーの臭いが充満する貧乏丸出しがつがつ小市民広場となっていて、たしかに桜は綺麗なのだが情緒も季節感もあったものではない。せめて皆弁当ならもう少しのどかであったろうになんであんな狭いところで他人と肩寄せ合って肉焼いたりカレー煮たりするのだろうか。なにが楽しいのか混雑が好きで好きでしかたがないのかとことん頭悪いのかアウトドアな人のやることはよくわからないのだった。花見には弁当でしょうが普通。なぜ警察は駅でミニスカートの中を盗撮する変態は必死になって取り締まるのに、花見で焼肉する人たちを取り締まらないのだ。
 えらいところに来てしまったと嘆きつつ人の少ないつまり桜も少ない場所を見つけて、とりあえずそこでY氏の持参した缶ビールを飲み桜を眺め、まだバーテープも巻いてない優雅なランドナーを眺め、やっと少しだけ穏やかな気分に浸るが、焼肉の煙はどこまでも追いかけてくるのであった。日本に生まれるのは不幸だと思う。

おお 4/1/03

 もう四月か。なんで仕事は進まないのに月日は進むのか。世の中、科学では解明できないことが多いなあほんまやなあ言うとる場合か。


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