―――しかし、これが並々ならぬ意図と決意を秘めた鳥居の作意なのである。
その意図とは多分、愛について物語らないことであり、愛が昂まってゆく空間を醸成することである。そのために徹底して双方がそれぞれの身体空間を創り上げることに賭けるのだ。
これが決意である鳥居の場合、徹底して「逃げる」(マイナス)こととなる行為を重ねながら絶対に外部に手を出さない。
唯一の表現手段は口を開くこと。よだれが垂れるころともなると、彼の身体の中を欲情が駆け巡るのが見える。
丸めた背面から愛の情念が沁み出る。口を開けることが救いになる。
そこでは身体のバランス(精神)のための技術となって顕示される。
陸奥子もまた身体空間に拘る。ばらした大裁ち鋏を持って黒衣の女の業を踊る。
鬼面となった女が着ける角であろうか。
厳しく身体空間を保持しつつ燃焼する身体がふたつそこにあれば、舞台は平明でよい。
終景、額縁のなかで陸奥子が鳥居のからだを打つ。ふたりが接触する最初である。やっと鳥居が打ち返す。愛は見事に成立する。陳腐というマイナスの手法が技法として際立つ瞬間である。
オン・ステージ新聞・1994年4月1日