地母神のような田中陸奥子の舞踏には、いつもながら驚かされる。
豊かだ。座しても、立っても、こぼれおちる慈愛とその反面の猛母の像である。
冒頭彼女は座して動かず、おのれの内曲げたからだに暗闇をかき抱き包み込み、顔面を白く光らせて威圧した。
彼女の踊りは受信基地のように受け身のところがある。
自分の意志で踊るのではなく、かつて巫女たちが天地万象の呼び声に動かされたように、猛母が平伏しておのれの子の行く末を見守ったように受容のからだである。
母神に翻弄される男の子は、鳥居えびす。こどもは壁に上から取り付けられた布製の蓮の葉に最初から隠れていて、田中陸奥子が消えると現れ佇みそっと沼に帰る。
彼は蓮の精のようである。沼の水と暗黒の泥土の中で、寡黙に息づくロータスの神秘を舞踏するようでもある。彼は水蒸気を掴むようになった。
素晴らしく自在になった。
彼の寡黙な佇まいは、肉体の深い襞と無心な表情の関係について、見る人を思索の淵に誘う。
その気迫は空間を一点に凝固させる力となっていた。
作品紹介→WORKS / 沼 〜 ロータス幻想
出典HP→PLAY BOAT誌・1996年12月号