「むしがし物語」は、舞踏の様式にぎりぎり納まりながら、舞踏と舞踏家の存在理由を自己批評してゆくといった構成の流れをつくり、観客に一切の媚び、説明を拒絶し、ひたすら舞踏本来の肉体の闇のみをあぶりだそうとした。
前半の鳥居の腑抜けぶりの立ち姿は、内に発狂と自死の火を含んでいて、その軽い歩行は、不思議な優しさと孤独をたたえていた。
後半の田中の狂気に憑かれた舞いは圧巻で、床すれすれのポジションで腰と足と手と腕が蛇のようにうねる。
その気迫は空間を一点に凝固させる力となっていた。
作品紹介→WORKS / むしがし物語
出典HP→テルプシコール通信・1993年11月