第4幕

第1場

(11月20日前後、21時頃の星空 場所は東経125度、北緯15度付近)

日本兵

北の空に見える、あの「M」字型は…カシオペヤ座だね
ってことは、北極星は…こんなところに
やっぱり、ずいぶん南なんだな。日本で見るよりずっと低い

主人公

カシオペヤ座…

日本兵

そう。
神話では、古代エチオピアの王妃で、自分の美しさを奢って神の怒りを買い、
娘を怪物の生贄にされるんだ。

ほら、ここにいるのが娘のアンドロメダ王女
こっちには、父親のケフェウス王がいて、怪物の化けクジラがこれ
そして、王女の危機を救うのは英雄ペルセウス。メドゥーサの首を掲げている
そのペルセウスの愛馬がこの天馬ペガスス
(ひとつずつゆっくり指しながら)
みんな、エチオピア王家の神話の登場人物だ

主人公

(少し笑いながら)
詳しいんだな。俺には、どれがどの星か、ぜんぜん見分けがつかない

日本兵

(苦笑しつつ) 好きなればこそ、かな。
秋の夜空は、明るい星が少ないから、馴染みがなくても無理ないさ
一等星はここにある「秋のひとつ星」みなみのうお座のフォーマルハウトだけ
少しさびしい季節だね

でも、もうすぐ、きっと知ってる星座が昇ってくるよ
夜も更けてきた…




第2場

(日周運動、0時頃の星空)

主人公

ああ。これなら、俺も知っている
この3つの星と、赤と白、二つの一等星。
オリオン座だったな

日本兵

そうだね。もう夜中には冬の星座が高くなるんだ
毎日の蒸し暑さで、季節に気づかなかったよ

主人公

本来なら冬の寒い盛りの星座だからな
確か、強さに自惚れて、罰としてサソリに殺された、じゃなかったか?

日本兵

知ってるじゃないか
そうだね。そんな風に語られてる。夏のさそり座と正反対にあるからかな
赤い一等星はベテルギウス
太陽の700倍もある大きな星で、赤いのは温度が3000度と低いからなんだ
白いリゲルの方は、一万度以上にもなる

主人公

おいおい、想像もつかないぞ
まさに「天文学的」数字ってやつだな

日本兵

そうかな? 僕らは普通の感覚なんだけど
…ふ、そうかも知れないな

主人公

冬の大三角形って、どれだったかな?
明るい星が多くて、どれだか忘れてしまった

日本兵

オリオンの右肩のベテルギウス、それから、東側にあるこいぬ座のプロキオン、
そして、ひときわ明るいこのおおいぬ座のシリウス。この3つで、大三角形さ

主人公

そうか
それにしても、明るい星が本当にたくさんあるな

日本兵

冬の夜空は一年で一番豪華なんだ。一等星のオンパレードだよ

さっきのベテルギウス、リゲル、プロキオン、シリウスに加えて、
おうし座のアルデバラン、ぎょしゃ座のカペラ、
ここに並んでるのはふたご座で、一等星のポルックスと、こっちがカストル
あれ、この星は… ああ、カノープスだ!

主人公

特別なのかい?

日本兵

日本からは低くて滅多に見えないんだ
だから、これを見られると縁起がよくて長寿の星と言われてる

主人公

そうか。じゃあ、お互いに長生きできそうだな (笑いながら)
それにしても、こんな夜空は初めてだ
撒き散らした金砂のようだ。空一面に、宝石が輝いている…

日本兵

「宝石」か。意外に詩人なんだね
このシリウスから、リゲル、アルデバラン、カペラ、ポルックス、プロキオンと
6つの一等星を結んで、「冬のダイヤモンド」なんて言う人もいる

主人公

ああ、金になんて換えられない、神のダイヤモンドだ…
…ところで、君にはダイヤモンドを贈るようないい人はいるのかい?

日本兵

え、ええ!? なんだい、唐突に
はは、そんな話はないさ。空ばかり見てるからね

主人公

(おどけて)それは残念。ま、俺も似たようなものか
平和になったら、いい人を探すさ

日本兵

明日の世界がもう、こんな風に平和だったらいいのにな




第3場

(日周運動、4時頃の星空)

日本兵

ほら、あの七つの星、北斗七星だ。もう春の星座が昇ってきた

主人公

Big Dipper、"大きな匙"か

母さんが、言ってた
北斗七星は、冬の間地面の下に隠れて見えない
でも、その間に、草木の種と春風を、柄杓いっぱいにすくっているんだ
そして、春になると空に昇って、集めたその種を世界中に撒いていくんだ
北斗七星が戻ってきたら、一面にシバサクラが咲く春はすぐそこだから、
冬の寒さに負けるな、って
真っ赤になった俺の頬を手で包みながら、いつもそう言ってくれた

日本兵

…素敵なお母さんだね

主人公

ああ。世界で一番、優しいママだ…

(散流投点灯)

主人公

流星だ(童心に帰ったように)
懐かしいな。小さい頃、願い事したのを覚えている

日本兵

空は好きかい?

主人公

…?

日本兵

僕は好きだ
澄み渡ったどこまでも高い青空も、星が降るような、こんな夜空もね
航空隊を志願したのも、空に憧れていたからかな
教練中よく、青い空を自分のものにした気になって、
帰投が遅れて叱られたものさ (愉快そうに)

主人公

似てるな。親しかった戦友も、空が好きだった
(呟くように) …そしてその空に散ってしまった

日本兵

人はこの空を飛び出して、宇宙へ行けるものかな
そんな時代が来るなら、この目で見届けてやりたいものだよ

(しばし間。薄明)

主人公

空が白んできた。夜明けが近いのか

日本兵

日は昇り、また沈む
明日もきっとこんな星空に会えるさ




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