Back


天満で添削 9/30/00

 去年もやったが大阪シナリオ学校主催の「エンターテイメントノベル講座」で、作家志望の人の作品を読んでいろいろケチをつけるという仕事をする。去年の人にはとてつもなく恨まれているような気がするのであまり気がすすまなかったが貧乏なのでなんでもやる。
 終了後中華料理をごちそうになっているところへ、田中啓文さんがやってきた。北野勇作さんのいるパラメトリックオーケストラの芝居を観たあと、のうのうと飯だけ食いにやってきたのである。そして他の人々が観ていない今日の芝居について「めちゃくちゃおもしろかった」と何度もくりかえし、まるで観ていない人はもはや生きている値打ちもないほど大損こいたに等しい自分は観て本当によかったよかったと言わんばかりであった。さあみなさんごいっしょに。
 人としてどうかと思う。

抗癌剤と豆板醤くらい違う 9/27/00

 でもそのうち抗癌剤とまちがえて豆板醤を投与してしまう医療ミスが発覚するという予想に七万ペソ。んー? それってどこが違うのー? と真顔で訊く看護婦が最低十万人は存在するという事実に百万ビケナホー。

トップバッター 9/25/00

 日常的にもよく耳にする言葉であるが、オリンピックの実況中継を聞いていてもかなりの頻度で「トップバッター」という言葉が出てくる。たとえばなんで体操の団体競技の最初に出てくる選手がトップバッターなのかみなさん気になりませんか。バッターちゃうがな体操やで体操。ぐるぐるまわったりつかみ損ねて落ちたり顔から着地したり風邪薬で金メダル取り上げられたりする人たちのどこがバッターなんじゃ。
 あと体操の女王とか新体操の女王とか言うけど、ほな男のときも柔道100キロ級の王とか卓球の帝王とか競歩の独裁者とかカポエラの天皇とか言うてやれとみなさん思いませんか思わんかなんで思わんのじゃあ。

マッキントッシュを選ぶわけ 9/24/00

 我孫子さんの新しい機械を見たせいでマッキントッシュを選んだことを後悔しはじめている。少し前からなんとなーく失敗したかなあという気にはなっていたのだが、今回はかなり深刻に思う。仕事に使うにはなにかと不便なのである。
 我孫子さんが見せびらかしていたのはウィンドウズCEとかなんとかいうようなOSで動く機械らしく、ゼロハリバートンデザインとやらでやたらとかっこよかった。しかも小さくて軽くて、キーボードもぎりぎりタッチタイピングが可能な大きさである。わざわざ外で仕事する必要などないし、我孫子さんのように「たとえ数時間であってもインターネットに接続できないところにいるとなにかメールが来ているのではと考えただけで心配で心配で動悸息切れ眩暈がして倒れそうになる」というような禁断症状に襲われることもないのだがああいう小さくてかっこいい機械を見てしまうと猛烈に欲しくなって困る。マックOSで使えるこういうやつはなぜかないのである。
 キーボード入力にしてもぼくは親指シフトという特殊な方法を使っているが、これとてわざわざ選んだわけではなくたまたま最初に買ったワープロが富士通のものだったからで、たしかにローマ字入力よりはすぐれた入力方法だとは思うものの一般的ではないため、やはり環境を整えるのはめちゃくちゃ面倒である。ばばつかみの人生とはこのことであろう。
 今から環境を全部換えるというのは、どう考えても面倒だしお金もないしやっぱりウィンドウズはちょっと難しそうだししかしスタイラスペンのことを「箱の横から出てくる棒」としか説明できない田中啓文でさえマックからウィンドウズに乗り換えてなんとかやっているのだからぼくにできないはずはないしでもウィンドウズに換えたら今までのデータはどうなるのとか、ぼくはなんにも悪いことはしていないのになぜこんな目に遭うのだろうか。どんな機械でも使えるマッキンドウズというようなOSを誰か作ってくれないものか。親指シフトも、もうちょっとメジャーになってもいいのではないかと思う。慣れれば絶対楽なんだし。
 
我孫子さんが高校野球を嫌いなわけ 9/23/00

 チェックアウトが午後一時までという非常にありがたいホテルのおかげで、十二時過ぎまで寝る。フロントで我孫子さん啓文さんと合流し「じゃあお昼は蕎麦でいいですね」ときっぱり決断する我孫子さんまかせで蕎麦屋に行くことになったのだが見れば我孫子さんは異様に荷物が多い。モバイル用のコンピューターを買ったとかで、このときぼくは前日の空き時間に秋葉原でも行ったものとばかり思っていたのだが、あとで聞くところによるとこの日の朝、わざわざ早起きして買ってきたらしい。カラオケを終えてホテルに戻ったのは朝五時頃だったそうで、よくもまあそんな元気があったものだと感心する。とても大人の行動とは思えない。
 蕎麦屋を出てから新宿駅ビルの喫茶店に行きうんこが出そうだった我孫子さんは死にそうな形相でトイレに駆け込み、その後数時間だらだら過ごしながら新しく買ってきたというウィンドウズCEなんとかかんとかのモバイル用コンピューターを見せてもらう。やっぱりマックは損やと思った。
 埼玉へ行くという啓文さんと別れて我孫子さんとふたり新幹線に乗り、なぜ世の人々は血液型を訊ねるかのように「野球はどこのファンですか」などと訊くのであるか野球なんかまるで興味ない人間もいるのになぜニュースの時間にプロ野球の結果など伝える必要があるのかあんなものはニュースではないではないか百歩譲って伝えてもよいことにしてなぜ同じ時間帯にどのチャンネルもどっとプロ野球の結果を伝えるのであるかどこを見てもどうでもいい野球の結果などやっていて非常に腹立たしいしかしなにより腹立たしいのは高校野球である、というような話をずーっとしながら帰ってきたのだった。
 我孫子さんはとりわけ高校野球を「憎んでいる」のだそうで、なぜかという理由もたっぷり教えてもらったが書き始めると原稿用紙八百枚くらい必要になるのでやめとく。けどまあいつも思うが我孫子さんは嫌いなものでも熱く強く語るのである。ほっとけばいいのに。

乱歩賞受賞パーティー 9/22/00

 乱歩賞の受賞パーティーがあるので行こうといろいろ誘われたので東京まで行くことにする。パーティーは午後六時からなのだが、その前にe-novelsの参加作家たちが集まる会があり、これに間に合うためには新大阪十時四十分という超人的な時間に集合せねばならぬと田中啓文氏に宣告され、死んでしまうのではないかと思いつつ八時に目覚まし時計をセットし、四時にベッドに入るが全然寝付けず、しかたなく起きてビールを飲み、結局六時過ぎに眠ったと思うのだがなぜか夢の中で「小林泰三」という単語が出てきたそのとたん女子校の中で女王と名乗る女子生徒が他の生徒を日本刀でめった切りにするわ念じるだけでそこらじゅうの女の子の両手首がねじれて飛ぶわ女王は鬼の形相でどこまで行っても追いかけてくるわ廊下は殺され切り刻まれた女の子の手足と内臓でぬるぬるするわというとんでもない夢が始まり、どこからかこれは夢だと一歩引いた視点で眺めているというのに突如、昔ちょっと仲のよかった女の子にそっくりで顔のつぶれた女子高生女王が憤怒に口を歪めながらぼくを睨み付けたかと思うと「あたしはそこへ行けるんやでっ」と寝ているベッドの足下から這いずるようにして覆い被さってきた。あまりのことに目が醒めてしまったのが七時四十分。胸がどきどきしてそれ以上眠れず結局そのまま起きてなにも食べずに家を出た。恐るべし小林泰三。
 田中啓文牧野修両氏と新大阪からのぞみに乗り、やはりえんえん喋ってげらげら大声で笑って他の乗客の顰蹙を買うというおなじみのパターンを踏襲しつつ東京着。帝国ホテルがどこにあるのかわからない三人は、もしめちゃくちゃ遠かったらどうしようとおびえながらタクシーに乗ったのだが、意外なほど近くてほっとした。帝国ホテルだから威厳があるけどホテル「帝国」だったら歌舞伎町あたりにありそうだ、とか、そこに泊まると仲居さんはめちゃくちゃ居丈高で「余はこれよりそなたのシーツを換えてつかわすぞえ」などと威張りながら働くのかなあみたいな話をしつつ十七階のラウンジへ。
 しばらくして集まったそうそうたる顔ぶれに圧倒され、ワタシハコノヨーナトコロニイテホントーニイーノダローカーと阿呆のようになって黙々と帝国ホテルのコーヒーを飲み、帝国ホテルのサンドイッチを食べ、帝国ホテルの水も飲み、帝国ホテルの便所にも入って帝国ホテルの便所の扉に感心しつつ帝国ホテルで小便をする。
 そのあとパーティまで時間が空いたので、森奈津子さんを囲んで一階の喫茶店でだらだらとビールを飲む。一杯九百円もするのでおかわりはしない。我々のテーブルでは誰もしない。お姉さんが来てお飲物のおかわりはいかがですかとプレッシャーをかけてきてもおかわりはしない絶対しないのだった。森さんとは前からお会いしたかったので嬉しかったのだが、おっさんふたりがずーっとなんか喋っていたのでその相手をするのに手一杯でほとんど話せなかった。残念なことである。
 六時になってさあ帝国ホテルの料理食べ放題じゃと勢い込んでパーティー会場にいったものの、いろんな人と話をするうちではそろそろお開きなどと言われて愕然とする。なーんにも食べられなかった。水割りだけはいくらでもおかわりを持ってきてくれるので十杯くらい飲んだがちっとも嬉しくない。好きなことをなんでもしていい美女山盛りの館へ招待されたのに、玄関脇の離れに住む年老いた執事と茶を飲むだけで帰ってきたような気分である。来年がんばろう。
 またしても十七階のラウンジにぞろぞろと上がって、やはりそうそうたるメンバーに囲まれてひっそりビールを飲みサンドイッチを食べる。あちこちから漏れ聞こえてくる話題のほとんどが下ネタだったように思うのは気のせいか。綾辻さんに「絶対見るべき」ビデオと「絶対見てはならぬ」ビデオのタイトルを教えてもらったのだが、横で浅暮三文牧野修のふたりがごちゃごちゃ言うので混乱し、結局なんにも覚えていない。午前零時から菊地秀行氏の誕生記念イベントが新宿であるということで、それに行くのだというメンバーについていくとなぜかカラオケに行き、なぜか最近になって東京で流行っているらしい「ヨーデル食べ放題」をなぜか突然歌わされ、それからやっと新宿へ。ロフトプラスワンではすでに飯野さんが全速力で突っ走っていて「てっちゃんと俺、親友なんだよー。今日で会うの三回目」だよなー、と何度もなんども確認された。親友ですまちがいありません。
 朝六時過ぎホテルにチェックイン。なぜか眠れず、オリンピック柔道で誤審があったというニュースを何度もなんども見る。九時頃やっと寝る。

恐ろしいことに 9/20/00

 ふと気づくと、あれほど嫌悪感のあったNHKのオリンピック放送のテーマソングをハミングしているのだった。いや今でも嫌悪感は増すばかりであるにもかかわらず、なぜこういうことが起こるのだろう腹の立つ。こないだもシャワーを浴びながらぼくらっのパンツはやわらかパンツーぱーっぱパンツなどと歌ってしまいうろたえたのだが、まあこの歌はなんとなく好きなのでよしとする。あの歌を一生懸命レコーディングしている歌手の姿を想像するたび楽しくなってしまうのである。ばたばたしたってするりんっぱ。

大阪で食事会 9/19/00

 某社編集者が仕事の打ち合わせがてらごちそうしてくださるというので大阪へ行く。他に芦辺拓さんと五代ゆうさんもいっしょ。芦辺さんはいつ会ってもものすごくよく喋るので今日もほとんど芦辺さんが喋ることになるんだろうなあと楽しみにしていたのだが、松茸づくしのコースをいただきながら喋っていたのはほとんど芦辺さんではなく終始芦辺さんであった。五代さんは五代さんでゆっくりおっとり喋るため、なにかを言おうと「ああ。…あたしも……こな」いだと言うかいわないうちに芦辺さんが「そうそう五代さんで思い出したこれもぼく昨日考えたんですけどたとえば少年少女向けのミステリーの場合はばばばばばば」ぼくがぼそっとアホなことを言って笑わそうとしても「そうそうそういうことあるんです実際それからこういう本も今日は持ってきたんですこれは近所の図書館の奥から三番目の棚の右から五番目に隠れていた本でたぶんぼくしかその存在に気づいてないはずなんでばばばばばば」
 有意義な食事会だった。
 
今世紀最後のオリンピック 9/15/00

 オリンピックが始まりましたな。今世紀最後のオリンピックとさかんに言うけど、今世紀最後だからなにがどうかというとだれもなんにもまったくどうもしないのである。そんなことで盛り上がるのなら今日は今世紀最後の九月十五日だ。これがどれだけなんともない事実かを知るために、ためしに誰かに電話して、おい今日は今世紀最後の九月十五日やぞ、それに明日は今世紀最後の九月十六日やぞ、がんばろな、とでも言ってみましょう。ほーほんまやがんばらななあと言う人はまちがいなくあまりかしこい人ではありません。
 開会式のときの日本選手団のマントが変だったと話題になっているが今までだってたいてい不細工な服だったんだから隠しただけまし。ぼくはそんなことよりNHKの放送のときテーマソングとしてしょっぱなに流れる素っ頓狂な歌声の方がよほど気持ち悪い。アイドル系の歌を採用するにしても、もうちっとなんとかならんものか。溺れかけとるのか。メロディもつまらないし、ちょっとは考えていただきたいものである。
 
知らないうちに 9/14/00

 締め切りを大きく過ぎてしまったため掲載されないかもしれないよと言われたエッセイであるが、その後一切連絡がなかったため載らないのだとばかり思っていたのである。今日別の出版社の編集者から電話があって「掲載紙を店頭で見かけた」と言うのでああそれはたぶんぼくのエッセイは載ってないんですよと笑っていたら、あとでちゃんと載っていたというメールをいただいた。載っておったのか。
 ほとんど忘れていた仕事を、人に指摘されてはじめて確認するなんてなんだか仕事に追われまくりの売れっ子みたいやなあと思ってちょっと嬉しい。

巨人のマジック 9/12/00

 テレビをぼんやり見ていると、スポーツニュースを伝えるアナウンサーが「巨人のマジックは」と言おうとして「キョジックは」と言っていた。なんだかいい感じの言葉である。キョジック。

『ガメラ3』 9/10/00

 テレビでやっていたのでやっと観た。いやあでかい恐いすごい。冒頭のギャオスの死体も唸ったが、回転しながら地上付近まで下降してきたガメラが回転を止め、がーんがーんという感じで首や手足を出していく登場シーンに痺れた。ああいうかっこよさというのは目にするまで知らなかったかっこよさなわけで、それを創り出した人はめちゃくちゃ偉いと思う。ストーリーがいいかげんだとか、あいかわらず棒読みの女の子がいるとか、イリスのデザインってなんか変だとかいろいろ言われているみたいだが、映像の迫力だけでぼくは充分満足した。ガメラはかっこええ。

ケーキ屋の美少女 9/8/00

 ケーキなど目の前に置かれたとしてもあまり食べたいとは思わないのだが、今日はおまえの仕事場へ遊びにいってやるのでケーキを買って待っておくように、とわけあって頭の上がらない偉そうな女性に命令されたためしぶしぶ近所のケーキ屋まで買いにいったところ店員のひとりがびっくりするほどの美少女だったのでびっくりする。スピードというアイドルグループが解散したあとひとり残っている一番の美人を賢く上品にしたような美少女で、しかも「えとあの。あ。ド、ドライアイスは取り出してから、あの、冷蔵庫に入れてくださいね」と頬を赤く染めながらにっこりたどたどしく言う姿はすぐさま連れ去りいっしょに旅に出たくなるほど純情可憐であった。
 それはそうとスピードである。解散する前からずっと疑問だったのだが、歌がうまくて顔がいまいち、歌はいまいちだが顔は一番(この娘がケーキ屋の娘に似ている)歌はまあまあで顔もまあまあ、とここまで三人はわかるのだが、歌も踊りもぱっとしないのに顔がモグラという人がなぜいたのかとても不思議。あれはなにかのまじないか。
 で、ケーキを買ったときいかに美しい少女がいかに可憐に対応してくれたかを、がつがつケーキを食らう女友達に語って聞かせたところ「あんたまだやる気か」声かけたりしたんちゃうのんと言われ「あ、いやそんな野心は決してそもそももうそんな歳では」とたじろぐと「そうそう。もうあんたもええ歳なんやからええかげんにしときや」ふへへっと鼻で笑われてしまった。
 やったろうやないか。


Back