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コイン脱穀機 11/28/01

 夜、友人がやってきてビールを飲みながら、来る途中「コイン脱穀機の小屋」を見たと言う。なんなのだそれはと訊くと、よくわからないが小洒落た雰囲気の明るいガラス張りの小屋があり、そこに「コイン脱穀機」と書かれていたというのである。あまりに気になったので、いっしょにわざわざ見に行ってみると、人通りの少ない道の脇にぼつっという感じであったのは「コイン精米機」であった。なるほどガラス張りで中には蛍光灯が煌々と灯っており、異様に明るい。脱穀機と精米機では作業の段階が違うわけであるが、だからと言ってコイン精米機というものがなんのためにあるのかはよくわからなかった。きっとコイン脱穀機もコイン刈り取り機もコイン田植機もコイン耕耘機なんかも、探せばどこかにあるのだろうと思う。

オサマ・ビンラディンの潜伏先 11/25/01

 大変な夢を見た。オサマ・ビンラディンの潜伏先を発見したのである。ジャングル奥の古代遺跡の地下に基地がある。ピラミッドほどもある遺跡全体が横滑りする壮大な仕掛になっていて、地割れのように開いた細く深い谷底に、タリバン兵とともにビンラディンは潜んでいるのだ。本人と目が合ったのでまちがいない。しかしさらに奥まで覗き込もうとしたら背後から猿に取り押さえられてしまった。猿は体の割に力が強い。キーワードは「ジャングル」「古代遺跡」「地割れ」「猿」だ。ブッシュに会ったら伝えておいてくれ。

六甲全山縦走大会 11/23/01

 同行の先輩によると受付に早く並ばないとスタートしてから渋滞に巻き込まれてしまう、というようなことでなんと驚け夜中の三時半に家を出ることになった。いつもならこれからもう一仕事というような時間であって健常な生活パターンに置き換えるとこれはだいたい夜の九時か十時くらいの感覚である。しかしまったく寝ないまま出発というのはいくらなんでも無茶なのでなんとか眠ろうとビールをがぶ飲みし、おかげで十二時半くらいには眠り込んだのだが二時過ぎには目が覚めてしまう。頭はまだ酔っていて体はだるい。これでは途中で膝ががくがくになってひどい目に遭いそうな気がする。それでは意味がないのだがなあ後半痛いやろなあとあきらめた気持ちで朝の五時という普段はビール飲んで寝るころに須磨浦公園をスタートしたのだった。
 ところがまあ歩き出してしまえばなんとかなるもので、事前にコースを半分ずつ二回に分けて歩いたのがよかったのか、最後まで特に膝が痛くて困るというようなこともなく夜七時過ぎには宝塚に到着。阪急宝塚駅地下でビールをがぶがぶ飲んでから帰ってきた。
 四年前「そんなもん楽勝じゃ」となめきった態度で参加したときは膝が痛くなってペースが落ち、健康を宗教のように崇めるいやみなじじいやおばばに馬鹿を見る目で見下されつつ抜かされたりした。そこで今回痛そうにしている人がいたら健康を宗教のように崇めるいやみなおっさんのふりをしながら馬鹿を見る目で見下してさっさか抜かしてせせら笑うというのが二度目の参加を決意した最大の理由だったのに、そこそこのハイペースで歩いている人たちは皆餌に突進する犬みたいに元気で軽やかな足取りであり、まったくおもしろくなかった。もっとゆっくりスタートした方がたくさん追い越せてたくさん見下せてきっと楽しかったに違いない。
 スローペースだが休憩を全然とらないじいさんなどというのもいて、何度追い越してもこっちが休憩をとっている間にこっそり先に行ってしまうらしく、追い越された覚えもないのに同じじいさんを十回ほども追い越してなにやら山の妖怪に遭遇したような気色悪さだった。
 ゴール後、とある中年男性が感激した面持ちで連れの女性に、大真面目に語りかけていた。「やっぱり、完走する秘訣は最後まで歩くことやな」なにが秘訣。
 
よだれ禿げる 11/21/01

 気に入らないことがあったり腹が減ったりするたびプラスチック製犬小屋の入り口に噛みつき唸る、ということをくりかえしていたアホ犬よだれは、自分でギザギザにした入り口に頭をぶつけて血を流し、結果耳の横が禿げた。アホやアホやと思っていたが、ここまでアホとは思わなかった。傷が痒いからなのかただ習慣だからなのか、ときどきぶるぶるっと頭を振り、おそらくはそのつど傷が痛むのであろうぎくっと体を硬直させて一瞬無表情になり、その後数秒してから「きゃあーいいいー」と切ない悲鳴を上げるのだった。でもしばらくするとまた頭をぶるぶる振ってしまい、数秒じっとしてから「きゃあーいいいー」と泣くのである。泣くほど痛いのならなぜ頭を振るのか。なぜすぐ泣かず数秒間無表情になるのか。そもそもなぜ入り口で頭を打つようなどんくさいことが起こるのか。なぜそんなにまでアホなのか。いろいろ考えさせられるのである。

獅子座流星群 11/18/01

 19日朝にはには死んでも終わらせないといけない何度か伸びたあげくの締め切りがあったがそれでも流れ星は見たい。見るなら山奥深くにある実家のベランダが絶好の場所である。というわけで実家で二時半まで仕事、四時半まで空を眺めて五時には仕事場に戻り最後の仕上げをするという万全の計画のもと、流星群を待った。
 二時前にいきなり勝手口で母親が「あーもうぎょうさん流れようわー」と驚嘆の声をあげたため仕事はそこで中断され、あとは寒い中ベランダでずーっと空を見上げる。
 しかしこんなものが現実に見られるのかと呆然とするほどものすごいものでありましたなあ。白いの青いの黄色いのと大中小とりまぜて飛ぶわ飛ぶわ。流れ星とはいえ「こっちにまっすぐ向かって」飛んでくるものなどもあり、これなんか小さいデススターの爆発みたいに見えてどきどきしたし海の方へ火の玉がいくつも落ちていく様はさながら映画アルマゲドンついつい"Don't wanna close my eyes"などと口ずさんでしまう。
 五時過ぎ実家から仕事場へと自転車を走らせているときにも、あちこちで星は流れ実に感動的な光景が展開されており、わあわあ興奮したおかげで眠くはならず無事に短編も書き終えたのであった。いやしかしすごかった。見なかった人は全身で後悔するように。

深夜の電話 11/16/01

 夜中の一時過ぎに電話がかかってきた。このところ徹夜続きでへろへろだったので早く寝ようと思っていた矢先である。
「だーがーばーいまさーあのがーぴーどはーぐがががんぐわー飲んでるんだけどーどへーぎぴーぬひょー」飲み屋の喧噪らしくうるさいことこのうえない。どこかの酔っぱらいの間違い電話だと思い一分ほど意味不明の言葉を聞いたのち黙って切る。すると二分ほどしてまたかかってきたので、ええかげんにせんかいどこかけとんじゃぼけなす番号調べて家火ぃつけたろかと怒鳴ろうとしたら親しい編集者だった。飯野文彦氏と飲んでいるのだということで、すでにへろへろの泥酔状態。じゃーさー、飯野さんと代わるねー。あーてっちゃん。えへへーセックスー。てっちゃんげんきー? チ××しゃぶってー。あはははははおもしろい? 飲みたいよねー。こっち来ることないのー? あー、十二月は一度行くかもしれませんが。あっそーなのー? いくっいくっ、てあーオレ射精しちゃったー。あはははははおもしろい? セックスセックスー。いっぺん飲みたいよねー。てっちゃん東京来ないのー? いや、だから、十二月には行くかも。あっそーなんだーあははいくいくってまた射精しちゃったー。しゃぶってー。あはははははおもしろいねー。オレさー、あのさー、ほんとのこと言うとさー、あははーセックスー。包茎いー。いやーほんと親友っていいよねー。
 どうかと思う。

犬の名前 11/10/01

 うちのアホ犬は「よだれ」という名前であるが、これにはちゃんと理由がある。もらわれてきたとき車酔いのためでろんでろんの状態で、のべつだらだらとよだれを垂らしていたからである。あれを見たら誰でもああこの犬の名前はよだれしかないと思うはずだ。他にはまず考えられない。
 しかし世の中には理由もなくつけられたぞんざいな犬の名前が実に多く、常々気になっているのだがなぜ犬がジョンなのか。ぼくの母方の祖母は生前、黒い犬は「クロ」白い犬は「シロ」それ以外の犬はすべて問答無用に「ジョン」と呼んでおり、当然よだれもジョンと呼ばれて、でも馬鹿なのでちゃんと返事をしていた。これが祖父の場合はクロシロは同じだったもののそれ以外の犬はジョンではなくすべて問答無用に「コロ」であった。やはりよだれは馬鹿なので、コロと呼ばれても嬉しそうに尻尾を振っていたものである。
 ポチ、コロ、はなんとなくわかる。子犬のとき小さかったりころころしていたからであろう。でもジョンはわからない。なんで犬がジョン。しかしもっとわからないのはペスである。
 ペスってなに。

『星の国のアリス』 11/7/01

 田中啓文『星の国のアリス』(祥伝社400円文庫)読了。ひとつ爆笑したネタがあったのだが、読了直後著者からそれがこの作品の根幹を成すモチーフであったと聞かされ呆れ果てる。

六甲山を歩く 11/4/01

 六甲全山縦走大会に備えて、先月は芦屋から宝塚まで歩いたのだが一応前半も歩いておいた方がよかろうと先輩が言うので、今度はJR塩屋駅から山を五つほども越えて市が原というところに至り、そこから布引の滝を経てJR三ノ宮まで歩く。数年前にはこのコースで膝ががたがたになったものだが驚いたことになんともなかった。このところマウンテンバイクが壊れているせいでBMXばっかり乗っていて、太股と背筋が大きくなっているのが自分でもわかるのだが、たぶんそのおかげだろうと思う。朝八時に塩屋を出発して、三ノ宮に着いたのは夕方五時頃。全行程約九時間のゆっくりしたペースだったし膝さえ痛まなければなんということもない。めちゃくちゃ偉くなったような気がする。こら楽勝やなあ、と三ノ宮でだらだらビールを飲んだらさすがに酔いが回りどろどろになって帰る。あとは寝るだけと思っていたのに突如雷鳴のごとくそうだ明日締め切りだったのだとひとつ思い出してあわてて仕事する。こんなに疲れているのに仕事するなんて、めちゃくちゃ偉くなったような気がする。

寄付 11/1/01

 高校時代の友人と電話でだらだら話をしていたら、ああそういえば寄付はどのくらい出した? みたいなことを言うのだった。我々の出た高校のとあるクラブが今年全国大会に出場するので彼らの旅費やらなにやらとにかく金が要る、卒業生なら寄付しろという手紙が来ていたのは知っていたが、普通はそんなもん右から左に捨てるだけまさか同期の友人が寄付するなどとは思いもしなかった。一応千円しておいた、のだそうだ。アホや信じられん。
 たしかに寄付を募る方もかなり陰湿というかしつこいというか粘着質というか商売上手というかそのやり口はたとえ一円でも毟り取ったるわ人間なにより銭でっせ社長。まず今も細々とつきあいのある先輩から寄付しろというファクスが来、次いでそのクラブのOB会らしきところから手紙が来、今度は学校全体の同窓会からも似たような内容の、しかし今度は相当根性の入った税金滞納差し押さえ公文書役所的手紙が駄目押しに来て、どの手紙もなんとなく「寄付するのは卒業生としてあたりまえの行いであってこれを拒むことは人間として著しくまちがっている。よって皆喜んで金品差し出すように」出さないと毒がまわって毛が抜けて死にますみたいな雰囲気なのである。気の弱い友人がでは些少ではありますがと金を渡してしまったのも無理はない。
 これがたとえばノルウェーのヒョーゲンミョーゲン高校の宴会部が国の代表になってベルギーで行われる国際大忘年会に参加するのでそこのあんたちょっと旅費と酒代を出してくれ、と言われたのだったら「なんでわしが」と誰でも気づくはずなのに、自分の出た高校の名前を出されるものだからなにやら関係があるように勘違いし、うかうかと寄付してしまうところにこの詐欺の巧妙さがある。故郷や出身校などを口実にするのは詐欺の常套手段である。みんなくれぐれも騙されないようにね。え、あれ詐欺ちがうの。


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